第十七話 攻防戦
ジェシカ頑張れ!
「なんと素晴らしい自己犠牲精神!その体でまだ立ち上がるとは。でもどこまでもちますかねェ」
厭味ったらしく男がジェシカを煽りながらモグルの使い魔と一体化する。
「私は悲願達成のために!根源たるマナと引き換えに力を示せ―。あははは!―――――<インテグレーション>」
男が使い魔の能力を行使して地面を隆起させてジェシカへ向ける。鋭利な形状になった砂の塊が容赦なく周りから襲い掛かる。
「これぐらいっ!」
地面を蹴り上げ後ろへ大きく回避する。着地した地点からも砂攻撃がある可能性を考慮して、足元に氷のシールドを生成する。
案の定着地した瞬間を狙って砂の塊が一直線にジェシカに向かってくる。しかしジェシカはこれを逆に利用し、いなすようにしてスライドしながら地面に着地する。
「氷でいなして着地するとはさすがですねェ」
「ではこちらからいきます」
ジェシカも反撃に出る。左腕にダメージを負い体力も既に限界を迎えていたが、ノアが来るまでの時間稼ぎになればいいと最後の力を振り絞る。
「アイスフィールド生成、一気に間合いを詰める!」
地面を凍結させ摩擦を減少。敵との距離を一気に距離を詰める。ダメージを負っているとはいえ<インテグレーション>発動中の身体能力は通常時を優に上回るため相手も判断が遅れる。
「速い、でも残念。足元がおろそかですよぉ!」
敵もさすがはBランクといったところか、攻撃されるであろうルートに魔術で構成した落とし穴を配置していた。
「そのまま落ちなさい!ははははァァァ」
敵も勝利を確信していたが、足元に違和感を覚える。
「足が動かないっ!こちらが狙いか!」
ジェシカはアイスフィールドで間合いを詰めたが、本当の狙いは敵の動きを封じることだった。正面から一気に距離を詰めることで相手の注意を自身に引き付け、その間に敵の足元を凍らせる。
「私の方が一枚上手でしたね」
ジャンプして落とし穴を回避しながら相手の背後に回る。動きを封じられた敵は必死に氷から抜け出そうとするがもう遅い。ジェシカは重斧の柄を使って敵を気絶させる。情報も引き出したかったので殺さずに捕縛したのだ。
しばらくすると男が目を覚ます。
「捕まっちゃいましたか。でも私たちの勝ちですねぇ、遠くからまたやってきますよ」
「この期に及んで何を…」
ジェシカが男をにらみつける。遠くからやってくる…、まさか魔物を引き付けたのかと最悪の思考が頭をよぎる。
「最後にとっておいた誘惑剤ですよ。やはり彼の言ったとおりだ。保険に残しておいてよかったですねェ、クハハハァァー!」
彼とは恐らくこの騒動の黒幕を指しているのだろう。何としても捕えなければならない。
だがこの状況を切り抜けるだけのマナと体力はもうジェシカには残っていなかった。
だんだんとガーゴイルの鳴き声が近づいてくる。はじめに対峙したときにはガーゴイルであればいつもの魔物退治程度に思えていたがこの状況だとドラゴンを前に為すすべもなく立ち尽くしている冒険者の気分だ。
鉤爪を立ててガーゴイルが集団で襲い掛かってくる。最後の抵抗とばかりにジェシカも残りかす程度のマナを振り絞る。
「根源たるマナと引き換えに力を示せ―。プロテクション・シールド!」
正直気休め程度にしかならないだろう。だがこれしかもう取り得る手段が残っていなかった。そのシールドもだんだんと亀裂が入っている。
「私もここまでですか…、でもよく持ちこたえた方ですよね…ノア様」
今までの仲間たちとの思い出が蘇る。そうかこれが走馬灯というものですか、ジェシカの目から涙が零れ落ちる。
とうとうシールドも完全に壊されジェシカが死を覚悟したとき、そこには絶望を打ち砕く主の姿があった。
ノア=ラングナー。王国騎士団<セブンラウンズ>の第七師団長、ランク―――S5。
迫りくるガーゴイルを目にも止まらぬ速さで貫き倒していく。ガーゴイルも何が起きたかを知ることもなく息絶えて地面に崩れ落ちていく。
これが王国最強と謳われる<セブンラウンズ>師団長の力なのだと改めてジェシカも思い知らされる。
「ジェシカ、よくここまで耐えてくれたわ。ありがとう。あとは私に任せて」
ここから第七師団長による一方的な蹂躙劇が始まった―――――。
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