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第十五話 希望と絶望

誘惑剤の効果により引き寄せられたガーゴイルの群れがライル村の人々に容赦なく押し寄せる。

村人は攻撃をしのぐことで精いっぱいだった。なんとか防御魔術によって耐えている者も多いが、一般人の村人が耐え切るにはあまりにもガーゴイルの数が多すぎた。


「くそっ、こっちに来るな!」


足を負傷した村人が表情を絶望に染めてガーゴイルから目を逸らす。


「もうダメか……」





諦めかけたときだった。


間一髪のところで別の村人が手助けに入る。村人の名はウィンブル=コーナー。どこにでもいる普通のおっさんだ。昔は名のある冒険者だったが、とあるクエストで大けがを負ってしまいそれを機に引退した過去がある。


「こいつから離れろ!魔物どもめ」


ウィンブルは走りながらロングソードを構える。その構えは独特で、敵の動きを予測して隙ができた瞬間に最速で間合いに入れるように意識されている。基本魔術を利用して強化された脚力で地面を勢いよく蹴り上げる。


「ブレス予備動作の隙が大きすぎだ、ガーゴイルさんよォ!」


スピードを増した右腕からロングソードが勢い良くガーゴイルの首元に襲い掛かった。


「グギャァァァー!」


ガーゴイルは息絶えその場に崩れ落ちる。これでも昔の冒険者時代に比べると衰えてしまったとウィンブルは悔しそうな表情をする。


「おい、大丈夫か。立てるか?」


「ああ、助かった……ありがとう。さすがだ、ウィンブルさん」


「これでもだいぶ衰えちまったがな…。今は何とか凌いでいるがこれじゃあじり貧だ。このままだとマナも尽きてガーゴイルの餌食になっちまう。支援も望み薄か…」


ウィンブルもそう長くはもたないことを悟る。

冒険者は基本的にお金がないと動くことはほとんどない。

せめて王国騎士団にこの状況が伝わっていればとウィンブルもわずかな希望を抱く。だが王国騎士団は村周辺では見かけることはなかった。そもそもこんな辺境の村にまで気を配ってくれる王国騎士団などいやしない…とそこである噂を思い出す。


近年の第七師団は身分や出身に関係なく、志高き者を登用するという噂だった。また、別の地域の村人からも第七師団の噂をよく聞く。他の騎士団は見向きもしない小型の魔物出現のときでも第七師団はサポートを出来る限りしてくれる、まるで女神のようだった、と。女神というのは比喩なのかそれとも誰かを示しているのかは分からない。それでも今はその女神の存在に可能性をかけたい。そんな気持ちだった。


「それまでは持ちこたえないとな」


わずかな可能性に希望を見出してウィンブルは再び立ち上がった。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

ライル村   襲撃から30分後―――――。


村人たちは限界を迎えていた。民家は焼けて崩れ落ち、多くの怪我人も出ている。腕に自信があった者たちも、あまりのガーゴイルの強さと多さから、所詮は一般人に過ぎないという現実を突きつけられる。


村長も村が蹂躙されるその様子をただ見ていることしかできない。周りからも多くの叫び声や悲鳴が聞こえる。


「もうこれ以上はもたん。どうしてこんなことになってしまった…」


もっと警戒していればよかったという後悔と事態を招いた黒幕への激しい怒りがこみ上げてくるが、だからといって反撃する力もない。もうこのまま終わってしまうのか。


諦めかけていたその時だった。


村にはびこっていたガーゴイルたちが轟音とともに地に沈んでいく。信じられない光景だった。あんなにも苦戦を強いられたガーゴイルたちが蹂躙されているのだ。まるで子虫が叩き落とされるかのように。


「一体何が起こっているんじゃ…」


よく見ると遠くに小さな三人の人影が見えた。あの圧倒的な力は間違いない。王国騎士団が助けに来てくれたのだと喜びがあふれだす。村長の目にまた光が戻った瞬間であった。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆


破壊された村の様子を見て悲痛と怒りでジェシカの顔も険しくなる。けれどこんな時だからこそ冷静に対処しなければならないと自分に言い聞かせる。


「私は正面から叩きます。カイル、エイミー。あなたたちは村人の護衛と私が叩き漏らしたガーゴイルの討伐をお願いします」


「「了解です!」」


カイルとエイミーはそれぞれ反対方向に走り出し、周りを取り囲むガーゴイルを切り倒しながら村人たちの護衛に向かう。


「王国騎士団が来てくれたぞ!」


「ありがとう、もうだめかと思ったわ」


村人たちもその様子を見て再びその目に力を取り戻す。


「皆さん、もう大丈夫です。我々が討伐するので、指示があるまではその場を動かないようにしてください!」


カイルとエイミーが村人を安心させている間にも、ジェシカはガーゴイルが多く集まる村の中心部で轟音を響かせている。


ジェシカの得物は重斧だ。身体強化によって繰り出されたその一撃は、斬撃よりも衝撃力に重きを置いているため、敵が人間であれば防具ごと粉砕することができる。


ガーゴイルも外皮で固くなっている箇所はあるが、ジェシカほどの腕があれば、その重斧から繰り出される一撃は衝撃波となって内臓にまで到達する。


今もジェシカは一人でガーゴイルを何頭も討伐していた。


「これでラスト。容赦はしません」


ガーゴイル3頭が束になってジェシカに空中突進してくる。だがジェシカには並みの魔物ではダメージを負わせることはできない。


「そのような攻撃では私の重斧には遠く及びませんよ」


そう言ってジェシカは空中でガーゴイルの間合い予測してタイミングよく躱す。攻撃をよけられたガーゴイルは予想外だったのか体勢を大きく崩す。

ジェシカがこの隙を見逃すはずがない。即座に風魔術を発動させて重斧の一撃に追い打ちをかける。


「根源たるマナと引き換えに力を示せ。ブラスト・ウィンドウ!」


勢いにのった重斧を大きく横へ振りかぶる。水平に放たれた一撃は連続してガーゴイル3頭の側頭部を容赦なく叩き潰す。骨の砕ける音が重斧越しにも伝わってくる。


脳天を叩き潰されたガーゴイルたちは制御を失い地面へと墜落していく。


周りに残りのガーゴイルがいないこと確認するとジェシカも安堵しひとりつぶやく。


「これであらかた中心部のガーゴイルは討伐できましたか。無事とはいきませんがギリギリ間に合いましたね…」


周りのガーゴイルたちが討伐されたのを確認すると、村人たちも安堵の表情を浮かべていた。


「騎士様。本当にありがとう!この恩は一生忘れないわ」


「今度近くに来る用事があれば、いつでもこの村によってくれ。盛大にもてなすよ」


ジェシカたちもその様子を見てとてもうれしそうだった。


「私たちでよければいつでも駆けつけて魔物を討伐します。国民を守るのが騎士団の大事な仕事ですので!」


「ちょっとー、カイルがすごいみたいに言ってるけどほとんどガーゴイルを倒したのジェシカ様じゃない。カイル浮かれすぎー」


「うっ、うるさいな。エイミーも俺と変わらないだろう」


「いいえ、私の方が2頭多いですぅー」


「そんなの誤差だろう!」


「でもカイルより多いのは事実でしょ?」


「わかったよ。ったく、エイミーにはいつも敵わないなー」


いつも通りエイミーがカイルのことをからかう。その様子を見た村人たちにもいつの間にか笑顔が戻っていた。


これからライル村の復興に向けて落ち込んではいられない。村人たちも冷え切った心に、もう一度火を灯そうとしていた。











―――――そこに突然ジェシカの声が響く。


「止まりなさい!これ以上こちらへ踏み込めば容赦はしません」


希望に照らされたライル村は再び絶望に飲まれようとしていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブックマークやいいねをつけて頂けると創作の励みになります。よろしくお願いいたします!

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