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第十四話 襲撃

ライル村の人々は、見張り役の二人が交代の時間になっても戻ってこないことに気づいていた。もしかしたら、最近多発している魔物に襲われてしまったのかもしれない。


村人が不安な表情で村長に話しかける。


「なあ二人とも遅すぎやしないか。何かあったんじゃ。すごい心配だ」


「そうじゃのう。ここは有志を募って二人を探しにいくのがいいかもしれん。手を打ってみよう」


村人たちにとってはここにいる全員が家族同然である。過去に災害が起こった時でも、米や小麦、野菜などお互いに共有できるものは出し合って、助け合って生きてきた歴史がある。まさに一蓮托生だ。

闇の冒険者たちの私欲に飢えた考えとはまったくもって思う強さが違うのだ。


ちょうど、村長がレックとリーの捜索隊の有志を募っているときだった。

息を切らせながら数人の村人が走りこんでくる。


「先行して俺たちで出張小屋に行ったけど二人ともいなかった。もし魔物に襲われたなら血の跡でもついているはずだろ?だけど特に襲われた痕跡も残っていなかった。一体どこに行っちまったんだ…」


「盗賊に襲われたのかのう?でもわざわざ襲った後に痕跡を残さないようにするメリットがそこまでない気がするのじゃが…。もっと別の思惑があるような」


村長もできれば二人の生存の可能性を最後まで捨てたくはないのだ。共に村で過ごしてきた家族なのだから。冷静に考えて痕跡がないのであれば、魔物あるいは人間に殺された可能性は低いとも言える。


そこで別の村人たちが血相を変えて村長たちのところへ駆け込んできた。何か大変なことが起こったに違いない。考えるまでもなく顔を見ただけですぐにわかる。


「みんな、大変だ!こんなの信じたくないけど、ガーゴイルの群れがライル村の方にやってきているんだ!くそっ、こんなんどうすればいいんだよ!」


その報告は村長が想定していたものよりも遥かに悪い知らせだった。なぜこんなことになってしまったのか。魔物の群れはここら一帯にはいなかったはず。

見張り番もつけて対策は十分なはずだった。


ここで村長がふと最悪の想定に気づいてしまう。点と点が線でつながったように。


「いや、見張り番……レックとリーが戻ってこない…。じゃが、襲われた痕跡が残っておらぬ。ここに来てガーゴイルの群れ…、まさか…」


いや、本当はレックとリーがいなくなった時からわかっていたのかもしれない。ただ二人が生きていてほしいという強い思いからその可能性から目を逸らしていたのだ。


もしも、これらの出来事が人為的に計画されたものだとしたら?


考えたくもないが、そう仮定すればすべての筋が通ってしまうのである。


こんなことは信じたくない。長年かけて積み上げてきた村人たちとの絆の結晶であるこのライル村を手放すことは考えられなかった。だけどそれは村人たちも同じ思いだった。


村長は意を決して村人たちに伝える。


「ここはもうすぐガーゴイルに襲われてしまうじゃろう。自分の腕に自信のあるものは村の護衛に回ってくれい!病人や子供、老人はなるべく頑丈な建物の中に避難するんじゃ!」


そして小さな声で続けて


「みんな、本当にすまない。わしがもっと早くに気づいていれば、早く対策を取っていればこんなことには…」


それは心からの思いであった。けれど村長がこの村のために尽力してきたことはこの誰もが知っていることだった。


「何言ってるんすか村長!このライル村は俺たちの村だ。絶対に守って見せるぜ」


「そうだ!誰だか知らんが姑息な手段を使ってくる奴はあとで返り討ちにしてやりますよ!」


村長の思いは言葉にせずともしっかりと村人たちにも伝わっていたのである。


「みんな、本当にすまぬ。深く感謝する」


こうして、ライル村の存続をかけた戦いが切って落とされた。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ライル村へ派遣された第七師団が全速力で馬を駆けている。団員はジェシカを指揮官としてカイル、エイミーの3人だ。


ノアも本当であれば十分な人員を編成してライル村へ向かわせたかったが、他の地域の見回りや有事の際の待機要員などに人員を割いており、これが限界であった。


しかしノアの右腕であるジェシカがいるというだけで、その不安感は大きく減少している。それほどまでにジェシカの存在は第七師団の中では大きいのだ。


(まだ敵に勘づかれた様子はない。敵が侵攻するであろうルートの死角に沿って監視兵を配置していたのが功を奏しましたね。これでは敵も気づけまい…)


ジェシカは自身の作戦が上手くいったことに内心安堵しながら二人に作戦を伝える。


「ガーゴイルは空中戦にされると厄介な相手ですが、地上に叩き落せば基本魔術の連携で撃破は容易な相手です。冷静に対処するように。」


二人もそれにこたえる。


カイルは人一倍正義感が強い男だ。今回の任務も自分から進んで立候補している。


「ジェシカ様、了解です。俺たちがガーゴイルごときに足を取られていたら、ノア様に笑われてしまいますからね。けれど全力で行きますよ。この事態を招いた罪人は必ず捕らえてみせます!」


「カイルは熱血正義馬鹿だからね~。熱くなりすぎてガーゴイルの群れに不用心に突っ込んでいく姿が想像できちゃうし、しょうがないから尻拭いは私がしてあげるわ。ジェシカ様に迷惑かけないようにね~」


「わっ、分かっている!エイミーこそ途中で逃げ出したりするなよ」


「はいはい、分かってますよーっと」


最後に緊張感のない声で答えたのはエイミーだ。一見してやる気のないように見える彼女だが、根は仲間思いで優しい立派な王国騎士団員である。

実はカイルが立候補したときに放っておけなくて心配で一緒についてきたのは秘密である。


「カイル、エイミー。二人ともくれぐれも気を抜かないように。基本魔術で対応は可能だと思いますが、想定外の事態が発生した場合には使い魔の召喚を許可します」


「「っ、了解です!」」


二人は緊張した面持ちでその指示を受諾した。ジェシカが使い魔の使用を許可したということは、敵も一筋縄ではいかないと認めているのも同義だからである。


使い魔の行使はマナ消費が大きいのと、体への負担が大きい。特に使い魔と一体化して劇的に戦闘能力を向上させるサモナーの奥儀<インテグレーション>は、長時間の維持は難しいためここぞというときの切り札として使うのが一般的だ。


ジェシカの長年の参謀としての知識も伊達ではない。誘惑剤による魔物の扇動、これだけの短期間で作戦を遂行する統率力。陰で大きな組織が動いていることは容易に想像できる。ジェシカの勘は大音量のアラームを鳴らしているのであった。


(まだこのあと何かある……いや、私の考えすぎか)


それが杞憂に終わることをジェシカは強く祈る。いや、杞憂に終わらなかったとしても国民を守り抜かねばならない。そして、第七師団の仲間を決して死なせはしない。


ジェシカは自分を鼓舞するように強く言葉にする。


「私はノア様の右腕、誇り高き王国騎士団<セブンラウンズ>の一員なのだから!」


第七師団の三つの大きな背中は、ライル村へ理不尽を打ち砕きに進んでいくのであった。

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