第十一話 <セブンラウンズ> ノア=ラングナー
メインヒロイン登場回です。
遡ること数週間前。
一人の少女があらゆる可能性を探り、執務室で深く考え込んでいた。
名前はノア=ラングナー。王国でも名門貴族であるラングナー家の長女であり、デルタ王国の最強部隊 <セブンラウンズ>、その師団長の一人である。階級は第7師団長だ。
十代のうちから師団長に任命されたエリートであり、その魔術の才能と生まれ持った美貌で民衆からも高い人気を集めている。
本人は至って真面目な性格であり、空回りしてしまう少しおっちょこちょいな一面もある。
最近の悩みの種は、居住区域周辺への魔物の出没報告が相次いでいることだった。今もノアの右腕である参謀ジェシカと共に状況を分析していた。
「一般市民の居住地周辺に魔物が多発している?どうも引っかかるわね」
「ええ、魔物の不自然な動きが気になります。例えば、本来は夜行性であるハウンテッド・ウルフが日中に姿を現し、住民へ危害を与えているようです」
二人が状況を分析していると執務室のドアがノックされ、団員が入ってきた。
「失礼いたします。結果の報告に参りました」
団員がジェシカへ耳打ちして調査結果の報告を行う。
「わかりました。ありがとうございます」
ノアがジェシカの顔を見ると、直ぐに良くない結果報告であったことは察しが付いた。
「ノア様、ちょうど詳しい状況報告が調査班から上がってきました」
「ありがとう、ジェシカ。怪しい動きはあった?」
「はい、やはりノア様が仰っていた通り人為的に魔物がおびき寄せられた痕跡があるようです」
「予想通りね…。実行者の特定はできている?」
「相手も手練れのようで、犯人に直接結び付くような痕跡は無く…、ただ、魔物をおびき寄せた誘惑剤の残りかすが残っていました。不幸中の幸いでしょうか、まだ少数の魔物をおびき寄せることしかできないようで、完全に機能しているものではないようです」
「状況は分かったわ。逆に言えば誘惑剤が完成されたときに対処が難しくなってしまうってことね」
「私も同じ考えです。手遅れになる前に対処すべきかと」
二人は事態を把握し、次の行動の作戦を立てる。第七師団にも選び抜かれた精鋭たちが集まっており、一般団員でもB~Cランクがボリューム層だ。
今までの魔物退治であれば一般団員でも余裕をもって対処可能なものが多かったが、今回は事情が事情なので、慎重に行動するべきだとノアは考える。
「そうね、あまり戦力は分散させたくないけれど…」
ノアが考えを巡らせていると、団員がノックもせずに慌ててノアとジェシカのもとへ走ってきた。
「ノア様、ジェシカ様、大変です!ライル村へガーゴイルが押し寄せているとの情報です。詳細は不明ですが、かなりの数で押し寄せて来ているとのこと」
一歩遅かった、とノアが悔しそうな表情をしている。だがここで迷っている時間もない。セブンラウンズとして国民を見捨てることは断じてできないからだ。
「ジェシカ、あなたにしかできない任務よ。お願いできる?」
「問題ありません。必ず魔物を食い止めてみせます。」
「ありがとう。でもまだ何か嫌な予感がする…、私は今後起こりうる戦闘に備えて一緒に行くことはできないけど、信頼してるわ。だけど本当に危険な状況になったら伝書鳩で私に伝えること。分かった?」
「分かりました。ご配慮感謝します。ノア様もどうかお気を付けて」
ジェシカはそういって足早に部屋を後にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ライル村 ノアとジェシカの作戦会議から5時間前――――――。
ライル村はノース村と同じく王都から離れた場所に位置している。
春ごろに作物を植え、秋ごろには身を付けた作物がたくさん収穫できる。村長は今日も村民たちの収穫具合を見て回っていた。
「リックさんのところも、だいぶ実がついてきたのう」
村長の呼びかけにリックが答える。
「そうですね、今のうちにたくさん育てておかないと。なんでも最近は魔物がよくでるらしいんですわ。まあライル村でそんな話聞いたことがないから大丈夫だと思いますがね」
「うちの村周辺は小型の魔物は多少は出るが、危険なやつはほとんど出たことがないわい。だから大丈夫じゃろう」
二人はお互いに問題ないことを確かめ合って安心していた。
たしかに本来であればほとんど危険はないと言っていいだろう。そう本来であれば。
村長が話を続ける。
「うちの村でも若い衆は頼りになる者が多くて心強い。王国騎士様には及ばずともみんな使い魔を自分なりに使いこなしているからのう。先日のゴブリン撃退の時も助かったわい」
「みんな実力はおいといて志は負けてませんよ(笑)」
「それもそうじゃな」
ライル村からも一流冒険者になる者、王国騎士団に入る者、あわよくば騎士団長になる者が出てくればお祭り騒ぎだなと二人で談笑する。
「そういえば、村長は知ってますかねぇ。ノース村の青年でnullの子がいたらしいですよ。なんというか、かわいそうですよね。世の中は不公平ですわ」
「それは知らんかったんのう。その青年にも女神の加護があらんことを」
二人はその青年に同情する。世の中の不公平さを感じた一瞬であった。
しかし、こうしている間にも魔物襲撃の時は刻一刻と迫っていた。
読んでいただきありがとうございます。ここら辺から話が大きく動き出します。
気に入っていただけたらブックマーク等つけて頂けると励みになります。




