第一話 異世界転生
「俺はここで死ぬのか…」
俺の名前は八重雲正人。24歳のどこにでもいる普通の会社員だ。今この瞬間に人生を終えようとしているかわいそうな人間であることは間違いない。突然知らない男が家に入ってきて、包丁で背中を思いっきり刺された。今まで味わったことのない激痛が体の中を走っていく。意味が分からなかったが、その男の後ろに立っていた一人の見慣れた顔を見て俺はすべてを悟った。
「うっ、裏切られたのか…」
声にならない声で俺は憎しみを込めてつぶやいた。それと同時にどうして、という悲しみにも似た感情が湧き上がってくる。
「すまない、でもこれしか方法がなかった。運が悪かったと思ってくれ」
そう発したのは会社でも仲の良かった同期の冨吉卓志。喧嘩をしたこともあったが、同じ仕事に取り組む仲間として、俺は信頼を置いている人物だった。ただ、お金関係のトラブルを抱えており、俺がかなりの額を貸していた。自分の性格上、人に頼られると断ることができずに時間を犠牲にしてまでもその人を助けてしまう。
ある日、俺が冨吉にお金のことで彼の自宅に訪ねた時に偶然、裏の世界の人たちと怪しい物品を取引している現場に遭遇してしまう。後日そのことについて彼に今すぐそういうことはやめた方がいいと諭したが、彼は借金を返すためにはこれ以外どうすることもできないと言っていた。
恐らく俺はその口封じのために、冨吉とつながりのある人物に刺されたのだろう。
自分で言うのもあれだが、俺は小さいときから自分を犠牲にしてまでも他の人たちが困っていれば助けるような人間だった。とは言っても決してリーダー気質のような性格ではなく、どちらかというと少し大人しい性格だった。今考えるといいように利用されていただけなのかもしれない。
そして、俺は今までの人生が報われないまま命を終えようとしている。
くそっ、もっと自分の時間を大切にしていればよかったなぁ。もう今更後悔しても遅いけど。もし、来世があるのだとしたら今度は自分の気持ちに素直に、そして逆境にも負けないような強い人でありたい。
そんなことを考えているうちに俺の意識は暗がりへと沈んでいった。
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