壱
梅雨の晴れ間の休日、
彼女と行った遊園地
それは、ちょっとした好奇心と悪戯心だった
「お化け屋敷に、入ってみない?」
彼女に問いかけると
「え〜、怖いの苦手なのに…」
困った顔の彼女が可愛くて
「…手を繋いで行けば、大丈夫じゃない?」
と、促す
「それなら…いいかな…」
彼女も、承諾してくれた
照れ臭い思いが、くすぐったくて
さりげなく、手汗を拭いた手を差し出す
そっと、手を繋いで来る彼女が、とてもいい
柄にもなく、ドキドキした
お化け屋敷は、子どもの頃に入ったのと大きくは違わない
扉を開けて、薄暗い作り付けの、如何にもといった物で
枯れた笹の葉の向こうには井戸があったり、その中から作り物のお化けが出てきたり
お墓に見立てた景色があったり…
赤い血がこびり付いたような、薄暗くライトアップされた手術台とか
ガラスの向こうから、恐ろしげに口をパクパクさせる魔物のホログラムとか…
『これなら、大丈夫かなぁ?』
と思いながら、手を繋いで彼女と歩く
「怖くない?」
と、問いかけると
「うん…何とか…」
彼女の緊張したような笑顔が、暗闇の中でギリギリ見える
『暗くても可愛い』と、ちょっと、ほっとする
大掛かりなお化け屋敷は、お化けに扮した従業員が
触りはしないギリギリの所まで追いかけて来たりする
あれは、なかなか…言い訳ではなく、恐怖よりも驚くんだ
しばらく歩いただろうか
空調が効くお化け屋敷の中は、外の空気より涼しく、汗もひく頃だった
『あれ?』
気のせいだろうか?
後ろから、パタパタと音がする
誰か追いかけて来る?
彼女にも聞こえたみたいで…
不思議そうな顔をして、こちらを見る
何が不思議って、足音が1人だからだ
お化け屋敷に入る人は、それなりに複数人で、話しとかしてるんじゃないのか?
足音がすぐ近くまで来ていた
視界にとらえたのは
黒いワンピースの女性?
腕に包帯を巻いていた
「えっ⁉︎あ、あの、お化け?いや、じゅ、従業員の方ですか⁉︎」
声が上ずる
その女性は
「えっ?違いますよ」
思いの外、若い声でハキハキと答えてくる
「えぇ?1人でお化け屋敷ですか?」
間の抜けた質問だが、若干安心もした
「そうですよ?外は暑いし、ここ涼しいから」
普通に答えられてしまった
思わず
「俺、1人でなんて、絶対無理…」
結構、大きめな声が出る
「…私も…」
彼女も、そう言ってくれたので、2人してくすくす笑う
「では、お先に!」
その女性は、スタスタと追い越して行った
ずいぶん、小柄な人だった