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現代世界は乾ききっている

パタパタと寄ってくる柳は、とても可愛らしい。

表情には出さないものの、礎は心の中で堪らんとガッツポーズを取っていた。

趣味の話や退屈であろう日常の話を、柳は嬉しそうに伝えてくる。

礎しか話し相手がいないという特殊な状況でもあるからなのは否めないが、文学の話をしてから柳は心を開いてくれたようだ。

「何を読んでいたんですか?」

「ネガイさんの『独唱』です。昔のベストセラーだった作品ですね」

「やはり近代文学がお好きなんですね。『独唱』は殺人を犯した教え子に制裁を与える話でしたね」

「礎さん、『独唱』もご存じなんですね。中々知っている人はいないのですが」

柳が率直に褒めると、礎はまんざらでもない顔をする。

自身の趣味は柳と同じ近代文学を読むことだったため、話が通じて礎本人も楽しめるのだ。

「今は文学やアニメーションといった娯楽は廃れさせられてしまいましたからね。本当はそういったモノこそ残るべきなのですが」

現代の二ホンエリアでは、娯楽の面で見る文学が徹底的に否定されている。

その流れができたのはほんの20~30年の話だが、当時の司令官である桜井赤晴が娯楽を徹底的に否定する人物だったからだとか、その頃に刊行されたある小説が反エリア的であったのにもかかわらず好評を博し、気に入らなかった政府上層部が目の敵にしたからなどという信憑性の薄い説が当時から飛び交っていたらしい。

その説の流布を、政府上層部は軍を使って鎮静。文学を執筆することを全面的に禁止した。

それでも一部の図書館が過去の資料として独自に保管をすることを決め、当時は禁書扱いで書籍を保管していた。

赤晴から一馬に代替わりして、ようやく軍属の者と研究を志す者の閲覧許可が一応降りたが、その頃には文学という存在がほぼ一般社会からは忘れられ興味を持つものは皆無になっていた。

当時の文学に対するネガティブキャンペーンで、今の研究者も文学の存在を否定する授業が殆どなのだ。

「文学は、本来人を豊かにするものなのですが…今の社会には絵空事としか思われないみたいですね。起こりえないことであり、非現実的だと」

柳は少々、悲しむような顔をした。彼女の文学に対する熱意は本物だ。

その人格を書き込むよう指示したのは今の桜井司令官だが、礎にも彼の真意が分からない。

桜井司令官本人は、この娯楽の否定を覆そうとしているのだろうか?

その割には、未だ娯楽禁止令は解かない。政府高官も興味がないため、話題にも上がっていないという状況なのだろうか。

よく分からないが、礎は柳がこの人格でよかった、と思っていた。

「さて、検査に行きましょうか。今日は全身をスキャンしますよ」

そう言って、礎は柳を個室から連れ出した。

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