高橋の思うこと
物言いたげな高橋の顔は冷めてはいつつもまだやや赤い。てっきりいつもの起伏のない顔で淡々とした態度を取られると思っていたのだが。
「なんだ、そんな顔できるんだな」
玄森がポロッと本心をこぼすと、高橋はまたなんとも言えない、色んな感情を含んだような顔をする。
「貴方が元死刑囚だと言うことも、復元された人間であることも私は知っています」
普段あまり語ることをしない高橋が、小さく呟いた。
「…勿論、貴方が過去の連続殺人犯であることも」
俯きながら、着ている服の裾をキュッと握りしめている高橋は玄森にはとても嗜虐心を唆られる。
「でも、今は何かが変わっている。そう私は思うんです。だから…その…」
何をモジモジとしているのだろうか。玄森には高橋の言葉少ない告白を理解することができなかった。
「殺す、と言う言葉が出たのが、少し悲しかった」
また何か心にある感情を隠すように、高橋は言葉を繕った。高橋なりに思いを伝えたが、どう見ても玄森には何も伝わっていないのが分かる。玄森の気持ちを理解するアンテナが、最初からないようなものだったことに気づかされるのだ。そしてそのことを玄森が隠そうとしないのも、まだ人間的な感情がどこか欠落しているからなのだろう。
「俺は…何も変わっちゃいないんだろうな。死刑囚の頃と」
ずっと無言で高橋をじっと見つめていた玄森が、自分自身を嘲笑するように呟いた。
「今のアンタにも、失礼ながら心を唆られた。本当にどうしようもない…。俺は人間じゃ、ないんだろうな」
そう言って玄森は顔面の火傷痕にそっと触れる。
あの少女に関する微かな記憶以外、思い出したものは碌な記憶がない。
虐待されていた記憶と、誰からも無視されていた記憶。
今の自分には殺人者としての明確な記憶はないが、時々抱く感情は歪つですぐ『殺す』ことに焦点を当てがちである。そんなどうしようもない人間であることに変わりはないのだ。
「もう、行ってくれ。俺は大丈夫だから」
玄森は目線を合わせないまま、ベッドの布団に潜り込んで会話を続けることを拒否した。
「…わかりました。また連絡事項があればお伺いします」
何かを諦めて、高橋は病室を後にした。
療養施設を歩く高橋の足取りは、ポタポタと元気がなかった。
自分の話す能力がないせいで、玄森の心を開くことができない。
固い表情の裏に、高橋は玄森への強い関心を隠していた。
彼もまた過去を語らない人物だが、顔の火傷痕や首の血管の縫い目、痕として薄れているものの皮膚を出している箇所の数多の古傷は、玄森の過去が一筋縄では行かない壮絶なものであったことを感じさせる。
桜井司令官が玄森を復元した理由は、その命を気にかける必要がない、簡単に言えば捨て駒の人間兵器と言う一面だけではない。
過去に関係があった能力者・柳祥子とお互い記憶を失くして出会うことで能力者の共鳴を調べるという側面も持っていた。
高橋はその表情の通り、基本的に上司にただ従うだけの機械のような女性だった。
玄森の世話係をするのも、桜井に任命されたと言うだけで他の感情は何も起こらないはずだった。
だが玄森の側にいると、彼は今を真っ当に生きようと踠いているのが伝わってくる。
碌でもない人間だと言いつつも、与えられた任務(本当は踊らされているだけだが)をこなそうとする姿は、高橋に興味を持たせた。
どこまでも哀れな人。そんな認識から始まった高橋の心情の変化は、いつしか玄森への想いに変わっていた。




