監獄の外は、未来だった。
返答を聞いた跳宰は、パチンと指を鳴らした。
床からボコボコと軍人を模した人形が生成されていく。
「これは私のチカラ。あらゆるモノを地面から作り出すの。一応貴方はまだ犯罪者扱いだから、こういう体裁で連れて行かせてもらうわね」
土人形は二つ。先ほど警備をしていた者と同じ顔だった。二体は玄森の両腕を拘束するように両脇についた。
「奥で桜井司令官がお待ちになってる。そこで改めて任命されるから」
鉄格子をくぐる前に、目隠しをされた。
「なぜ目隠しを?」
「ここ、黙秘しなきゃいけないこともあるのよ。建物を出たら外すから安心して」
(そういえば、ここは軍の研究施設って言ってたな)
見せられないものがあるのだろうと思うと、従うしかないのだろう。
しばらくカツンかツンと4人で歩く音だけが聞こえる。
空調はしっかりしているのか、肌寒さや暑さは感じない。それでも何か異質な空気…野生の巨獣に吐息を吹きかけられているような、纏わりつく雰囲気を感じる。
(一体ここでは何が行われているんだ?周りからそれなりの数の人の気配を感じる)
思うことはあっても、玄森は口に出さなかった。おそらくそれも、黙秘される項目に入るのだから。
エレベーターの開閉音が聞こえ、足を進めるとそこで目隠しは外された。
「ここからは、貴方もよく来ることになる場所。部屋の位置とかは覚えておいたほうがいいかもね。今から行くのは、司令官執務室だし」
「いつもそのサクライ司令官だかっていうのはそこにいるのか?」
「桜井司令官は基本的にここにはいないわよ。何か直接指示があるときだけこの研究施設にくるの」
エレベーターは透明な壁を使われていた。そこから見える建物内部は未来的で、総合病院をイメージしたように白と木と透明をモチーフにした建物だった。連絡通路は強化ガラスで内部が全て見え、手すりはクリーム色の質のよさそうな木で、掴まりやすいように常に壁に這わせられている。
先ほどの異質な空気とはまた違い、過剰なまでに潔癖な、いかにも整えられた空間がそこにあった。
「執務室はここ15階。会議室の隣よ」
エレベーターから降り通路を歩くと、右手奥に執務室と表札がかかっていた。
「失礼します。玄森漆死刑囚をお連れしました」
跳宰が牢獄での妖艶な態度から一転し、引き締めた表情でノックをすると中から背の高いサングラスをかけた男が現れた。
「…入れ」
男は淡々と業務的に執務室の扉を大きく開けた。
「玄森死刑囚、初めまして!私が桜井だ!」
キーンとするような声で、執務机に就いていた桜井が話しかけてきた。跳宰と男は動じず、ただ敬礼を返す。
見れば見るほど、桜井は幼かった。そして挙動も、司令官に就くものとして落ち着きが足りない。
このエリアの司令官がこれでいいのか?と思うレベルだった。
「桜井司令官殿」
「ああ、ごめんね、ユタカ。ちょっと張り切りすぎた」
男が窘めるように呟くと、桜井は上司モードに顔と態度を切り替えるのだった。




