天秤にかける
「こんな言動をしておられますが、桜井司令官殿は気が長い方ではありませんので。お言葉には十分お気を付けください」
永瀬が補足するように、未だ悶える詠斗を汚物のように見ながら言葉を発する。
「さて、もう一回聞くよ?彼女は一体何者?」
答えるべきなのか。未だ電子は詠斗の身体の中に息づいている。そして次の一撃は、今の比ではないのだろう。
「彼女は…サオリさん。お答えできるのはそこまでです」
「ん?<サオリさん>…?」
答えとして判定が出たのか、電流は走らなかった。
「そのサオリさんっていうのは、あの瓜二つの女性のコト?」
「そうです」
ふーむ、と桜井は一旦手を収めて再び自分の座っていたソファにドカッと座りなおした。
眉間に皺をよせ、額に右手の人差し指を当てる。
熟考をしたあと、桜井はまた笑った。
「能力、そのサオリさん?が使ったのは監視カメラの映像に残っているんだ。そしてサオリさんは、ストレスカウンターを付けていない。本来このエリアに居ることが分かれば強制的に付けられるものなのは、詠斗君も施設勤務ならわかるよね?」
「…はい」
「となると、サオリさんは未確認人物ってこと。そして君の父上である崎下…あ、上戸前司令官、でいいよね?あの人は50年前の研究の中枢にいた人。そんな人の家からサオリさんが出てくるのが確認されてるけど、なんとなく、曰くつきだよねえ」
少し間を置いて、再び桜井の周りに静電気が立ち込め始める。先ほどの比ではない。向かいに座っている詠斗にも静電気が剃刀のように当たり、皮膚が切られているようだ。
「サオリさんは、僕の言う通り紛い物なのか知りたいんだけど…」
回答を間違えば、死ぬ。そんな未来が明確に見える。
「サオリさんは、白藤さおりの体細胞から造られた存在であることは濃厚です。ただ、私は父の遺言である<観察>以外は、彼女のことは何も知りません。偶々彼女が感情の起伏を示した際に、能力の発現や、身体の変形を起こしたのを確認しました。私は父の遺言をこれからも守り、彼女を観察しようと考えていました」
詠斗が選択したのは、ほぼ偽らないことだった。詠斗の答えに、桜井は雷撃を収める。
「そう。やっぱり紛い物なんだね、彼女は」
命は今のところ助かったが、未だ不穏な空気は漂っている。先ほどまで笑顔だった桜井が、氷のように冷たい表情をしているのだ。左こめかみをガシガシと掻くと、永瀬に視線を向けた。
「詠斗君を、実験待機室に入れて」
「畏まりました」
「…!」
実験待機室。何をされるのかは想像がつく。そこに通されるときは、必ず脳の機能に関する調査を行うからだ。ほとんどは記憶を読み取る調査に使用される。
桜井は今の詠斗の発言が嘘ではないことを知った。今度はその奥にある情報を取ろうとしているのだ。
「行くぞ、崎下詠斗研究員」
「じゃーね詠斗君!またお話しようね!」
桜井はまた無邪気な顔をして、永瀬に引きずられ退場する詠斗に手を振った。




