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詠斗の復活

粒子の渦の中は、とても居心地がいい。

洛神の瘴気や玄森の怒り、湯神が捻じ曲げた空気が粒子に吸収されて浄化されていくようだ。

サオリの崩壊が始まっていた腕も、一時的に元の腕に戻る。


そして―――鼓動が完全に止まっていた詠斗の心臓が動き出した。


「ッハア!ハア…ハア…」

弾丸をこみ上げさせて発砲したように、息を吐き出す。

荒いながらも戻った呼吸によって、粒子がさらに詠斗の身体の中に入り込んでいく。

粒子は能力によって焼き切れた脳神経と目を一瞬で治癒させた。


「さ、サオリ…さん…?」

「エイト!」

詠斗を抱きかかえたサオリの目が、いつもどおりになっている。

サオリの顔から、悲痛や怒りは消えていた。

在るのはいつもの、詠斗をのぞき込む天真爛漫な顔だった。


能力を出し切って、自分は完全に脳と目がやられて死んだはずだ。

意識はなく、死んでいた自分がどこにいるかも分からない。

だが、目を覚ます前に記録で知ったあの青年が一瞬眼前に現れ、敬礼をして笑っていた様な気がした。


「よかった…!よかったあ!エイトが、目を覚まして…!」

サオリは目に涙を溜めて、病み上がりの詠斗をぎゅっと抱きしめた。

…幾分か力が強く、詠斗の骨が軋む。

「痛いです、サオリさん…」

「ごめんなさい!」

詠斗が言葉にすることでようやく力を緩めるサオリだったが、抱きしめるために回した手はまだ離さない。

もう、時間が残されていないことは、サオリ本人が一番わかっていた。


「サオリさんが、生きててよかった。それだけで…安心しました」

「私も。エイトが生きてくれて、よかった」


「…」


不器用な詠斗には、それ以上かける言葉が浮かばなかった。

だがサオリの抱擁が、これ以上なく心地いい。

ずっと詠斗が知らなかった、暖かい何かに包まれているようだった。


だが…その抱擁に、力がなくなっていくことに気づいてしまった。

「サオリさん…?」


視界の片隅に入った、サオリの左手がボロボロと砂の塊が風で流されるように崩れ始めていた。

詠斗は慌てて跳ね起きて、サオリの姿を見る。

「回復液…!まだありますから!すぐに家に戻れば…!」

胸ポケットをまさぐる詠斗の手を制止するように、サオリは右手をそっと添えて笑った。

「今回は…もう、無理みたい、なの…」

「無理って…!まだ、大丈夫なはずです!培養液の中に入れば、また…!」


詠斗は制止されても諦めず、回復液を取り出してサオリの左手にかけた。


(復元、されない…!)





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