表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
281/285

割り切れと言われても

湯神の表情は、混迷を極めていた。

あの時白藤は目の前で消えた。それはまぎれもない事実だった。

粒子となり、全世界の人間の体内に取り込まれて消えていった。

…それが湯神が視た真実だった。

記憶改竄の刑を受けても、白藤が消えたことだけは朧げながらも覚えていた。

たまたま知り合った青年と土木業に従事し、寿命を終えて死んだ。

その人生の中で、白藤に会うことはなかった。


「…」

「何も云えないか。そうだよな…」

沈黙を破れない状態が続く。湯神も拓も、どこから切り出していいか分からなかった。


「シン君」

沈黙を破ったのは、白藤だった。

「…なんだよ、白藤」

「ごめんね」

一言静かに謝り、白藤は深く湯神に頭を下げた。

「本当は…もっと早く…動ければよかった…」

「ごめんね、って…」

「震の遺骸が回収されてたこと。また能力者研究が続いていたことも、さおりは知ってたんだ。そして、神を甦らせ、利用しようとしたこともね」

拓が白藤の謝罪に補足を付け加える。

「全部識っていて、私は動けなかった…。身体に作れるだけの粒子が復活して、その時にはもう、シン君は…」

白藤は頭をあげても尚俯いている。謝りたいことがありすぎて、言葉にできない。

何から口にすべきか、分からないのだ。


「…ったく。なんでお前はいつも…。なんでだよ。お前は巻き込まれてなければ、幸せだったんだよ…!なのに…なのに。なんでいつも謝るんだよ!"さおり”!」

前髪で隠れた両目から、ぼたぼたと透明な雫が零れていく。

『なんでだよう…』と湯神は悔しさを吐露していた。


「あれは、誰も悪くなかった。想定外な事故だったってだけだ。だから…」


そんなに自分を責めるな、と拓は湯神と白藤の肩をポンと叩いた。

「でも!俺があの時お前に触れなければ!」

「異能が存在するなんて、予測できないだろう?」

拓はまた、やんわりと笑う。

「なあ、さおり。もう俺たちも待ちくたびれたよな?」

「…拓君…」

白藤が本当に言いたかったことを、拓が促す。

「今度こそ、帰ろう。三人で」

顔をあげて、真っすぐに拗ねる湯神を見つめる白藤には、厳かな空気が纏われていた。

「帰ろうってか…どこに帰るってんだよ…」

ケッ、とやさぐれる湯神に、白藤は微笑む。

「…あの頃に。もう本当は私たちの方が、ここに居てはいけないの。だから…私と拓君はシン君を迎えに来たの」


『もうここに居てはいけない』。その言葉は湯神の内に秘めていた思いだった。

寿命を迎えて死んだ者が、利用されるとはいえ何回も現世に来てはいけないのだ。

白藤は、その悪しき輪廻を消すために動いていたようだ。

湯神は『歪み』の能力で、異質な力を感知できる。

眠っていた時はいくつかの波動を感じていたが、今はこの場に居る者たちからしか感じられない。


手をだらッと下げる湯神の手を、白藤は静かに握った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ