校内に入る
その再生技術に溺れた愚行と言わざるを得ない破壊行動はどんどん連鎖していった。
大国に打ち勝つために小国は連合を組み、中立国は世界戦争を終わらせるべく…と同時に少しでも戦後に自分たちが利を得るように動いた。
防衛のためだった戦争はタガが外れたように攻撃に代わっていき、中立国に潜む武器商人は懐を潤していく。
だが戦争が長引くにつれ、小国連合の国土も、大国の国土もほぼすべて焦土と化した。
肝いりの再生技術を使って停戦を図っても、その効果は到底すべての破壊行為を帳消しにすることなどできはしなかった。
ーーーその戦争で、地球の九割以上が人の住めない地となり、世界人口も百万人を切っている。
唯一『国』というカテゴライズができるくらい生き延びたのは、今現在二ホンエリアと呼ばれる地域にいる人々だ。
もともとは情緒や自然を愛する国民性は、この大戦以降一変して殺伐としたものになる。
力や知力こそすべてで、芸術や文化活動は極端に目の敵にしている。
『芸術や文化で人は救えない』という大戦以降の復興時に芽生えたものが、今なお残っているのだ。
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足の気の向くままに、歩道を一人歩く桜井の足がピタッと謀ったように止まったのは、学校と思わしき建造物だった。
『思わしき』というのは、桜井の時代よりも建物の年式が古く、彼は資料でしかその形を見たことがなかったからだ。
学校名を彫り込んでいる門は削れて読めず、やや遠くに見える校舎もコンクリートに罅が入っていて年季を感じる。
入ってみよう、という気持ちが、桜井の胸に不思議と湧いている。
一歩踏み出し門をくぐると、その瞬間に小雨が降りだした。
慌てて飛びのき、門から身体を反射的に出ると、不思議と雨は止む。
(どういうことだ…?)
もう一度、門をくぐると、やはり小雨が降っている。
もう一度、門から歩道へ出ると、そこは快晴だ。
空を見上げても、特に境目に雲らしきものは見当たらない。
なんとも不可思議な天候に、桜井の好奇心が疼く。
桜井は校庭を抜け、件の校舎に向かっていった。
門から見えた玄関のドアに手をかけると、ギィギィと重い物が揺れる音がする。
カギはかかっていないようだ。
ドアを押して開けると、呼び鈴のような音がチリンチリン…と鳴った。
やや奥の左手に、靴箱の列が見え、目の前には来客応対をする事務所の窓口がある。
どうやらここは来客用の玄関のようだ。
「やっほ。」
「…貴方は…?!」
玄関の前にあるテーブルにもたれかかっている青年が、微笑を浮かべて片手をあげて会釈した。
桜井一馬に瓜二つの、青年だった。




