間の世界に~世界大戦を振り返る~
身体が消滅した桜井一馬の魂が居たのは、想像していた天国や地獄、或いは虚無ではなかった。
軍人として人を殺めることもし、また能力者プロジェクトで他人を間接的に苦しめた自覚があった…軍に在籍し、傀儡だったとはいえ責任ある立場であったのだから、そのことに関しては割り切っていたつもりだった。
だが、寿命或いは任務で死んだ際に、良い未来や天国と形容される場所には行けない、行くことが許されないのも自覚していた。
そんな一馬の魂は、現在の二ホンエリアの街並みとは全く違う市街に在った。
魂のみとなったことで、記憶は曖昧だが…どこか懐かしい感覚に陥り、そして何かでこの風景を見たことがある。
一馬の立ち位置の背後には地下鉄入り口があり、顔が影のようにぼやけた学生や会社員が疎らに行き来していて、側の道路では旧式の信号機が、青信号になるたびに聴覚障害のある人へ点灯を告げる調子はずれな音を鳴らしている。
車道を走る車も、所謂産廃レトロカーと言われるものが殆ど――というより、それが最新のようだ。
一馬の時代には過去の産物として忌避され、破壊命令が出たものばかり。
ここは、どこなのだろう。
覚えているはずの心当たりのあるものが思い出せない。
信号を渡ってみよう。
そう思い立って一馬はガタガタになったアスファルトの歩道を歩く。
何処に行くかは、足に任せることにした。
歩道を渡り、なんとなく左に曲がる。
完全な住宅街ではなく、何十年前よりも前に機能していたと思われる廃れた小売店が散見される。
その他は学生が入るであろう地元密着型の飲食店が料理の匂いを道路に僅かに流しているようだ。
こんな風景は、もう二ホンエリアには存在しないはずだった。
殺伐として、結果と利益しか求めなくなった世界。
それは二ホンエリアに限った話ではない。
百年ほど前の世界大戦で、全世界の人々の生活はほぼ破壊・壊滅した。
核兵器、生物兵器、細菌兵器。各国が所有する人間の悪意を煮詰めたありとあらゆる兵器や武器が、ルール無視で使われたのだ。
きっかけは、大国同士の覇権争いだった。
政治的な駆け引きで均衡を保っていた関係は、片側の大国が軍事演習と言い繕って実砲弾を近隣諸国に打ち込み、一般人に死者を多数だしたことから容易く壊れた。
一般人や病院には危害を加えないと定められていたのを公然と破ったことで、いよいよその大国は世界制覇の野望を隠さなくなった。
国民が多いことを最大に利用し、同時進行で複数の国を人海戦術と極秘開発していた最新兵器で蹂躙し始めたのだ。
徹底抗戦を宣言した国には、即座に中枢機関を核爆弾を打ち込み政治機能を全損失させ、次に国の国土全てを宇宙センターから放つレーザー光線で焼き払い、全滅させる徹底ぶりだった。
そこまで荒廃させるのなら、最早利がないようにも見えるのだが、その国には『森林資源や地殻資源を強制的に再生させる』極秘技術があったのだ。
だからこそ、容赦なく破壊行為が可能だった。




