猛攻、詠斗の限界
極僅かではあるが、神経の伝達という行動が取り払われたことで玄森は高揚を隠さななかった。
「こりゃいいぜ!テメエは俺たちが死ぬ気で動くからよ、存分に駒にしてくれ!」
玄森は詠斗の能力効果を、自身の能力に追加する。
恐らく玄森や紺野、サオリが独自に構成した能力の情報も、ほぼ詠斗に伝達されているようだ。
だからスコープに能力を重点的に振ることで、直観的だった瘴気の情報をより鮮明に視覚化するよう努める。
《…》
詠斗は口を開かず、右手の人挿し指を真っすぐ正面へ突き出した。
【yr…!oldkl,abl!】
洛神が少しでも何かしらの行動に移す動作をする…いや、ほぼする前に、その動きを玄森と紺野が潰す。
<スコープ>で動作をしようとする手や脚を構成する瘴気が薄い部分や、瘴気が行動の為に溜められる箇所を玄森のブレードソードで叩き斬り、紺野は反撃動作を足技で更に潰す。
サオリには『神読』の力を更に多く割いているため、本来研究員では権限がなく発動できない、兵器としての意識連結をしている状態になっている。
サオリの意識は能力生成としてのものになり、肉体操作は御内がしているようなものだ。
二人が洛神の動きを封じた際に、更に動きを封じる為に『時間停止』をかけ、『凝結弾』を気付かれないように打ち込む。
『凝結弾』は瘴気を固め、個体に変える。少しでも攻撃で与えられるダメージを増やすためだ。
そんな組み合わせを、延々と洛神に仕掛け続ける。
最初は総量が全くつかめない程膨大だった瘴気も、ここまでの攻防で底が見えてきた。
洛神がダメージを受けていることを隠せなくなっているのか、再生は紺野の能力を使わなくても再生しきれていない。
その証拠に、洛神の身体の周りには弱体化し煙草程度にしかなっていない藍色の煙が漂い、特に攻撃を当てた左腕は肘下から欠損していた。
(もう少し…)
サオリ以外の三人は、そう感じ取っていた。
「反応がねえぞ、御内詠斗!オイ!」
《ッ…!ッ!》
洛神は今、何かを仕掛けてこようとしている。
残りの瘴気で、形勢を逆転させられる一手を使うようだ。
…だが、先に限界が来たのは詠斗だった。
ずっと指されていた人差し指が、ゆっくりと力なく落ちていく。
無論、ここで動けなくなってはいけないと詠斗は必死に踏みとどまろうとするが、とっくに彼の限界は超えていた。
「くっ…!」
紺野は詠斗にも遅延能力『ratel』をかけていた。
確かに延命にはなったが、それでも彼の神経が焼き切れる速度は完全に補助できなかった。
「振り向いてはいけない」と操作中に詠斗に告げられたサオリだったが、彼女は耐えられずに一瞬振り向いてしまった。
――――ゴトン、と詠斗が棒立ちの体勢で真横に倒れていく姿が、コマ送りのスローモーションのように目に映った。




