神との闘い・①
【y'la kfel】
「…フン。下らねえけど、その闘争心は嫌いじゃねえな。ねじ伏せ甲斐があるってもんだあ」
神の本気が籠る言葉に、普通の人間では分からないその言葉に玄森は言葉を返す。
万物に対する殺意の塊である彼も、洛神の言葉に機微を受け取ったのか、本心から言葉を出す。
「<絶対的な存在>に仇なすのも、また一興だね。漆」
紺野も軽口のようで、カラカラに枯れてなくなっていた闘争心というものを思い出すように玄森に呼応するようだった。
…何故、忘れていたのだろう。この湧きたつような闘争心を。
超越者だから?いや違う。紺野は抗い続け飲まれた玄森とは対照的に、抗わずに諦めて逃げ切ったのだ。
それは紺野だけでは湧き立たせることだ出来ない、忘却の中に燻っていた僅かな種火だったのだろう。
【…】
神は静かに、長槍を横一文字に振った。
それはあまりにも軽やかで、死神が魂を一撃で刈り取るかのように無駄のない、静寂が極限まで凝縮された動きだった。
通常であれば、目測でも長槍の射程範囲は玄森達には踏み込んでこなければ届かない。
明らかに範囲外の彼らに、その一撃は到達していた。
「っと!目なんて当てにならないってか…」
槍の一撃を、玄森が直感でブレードで抑えきると、紺野が一旦その驚異的な脚力で空中を蹴り、神に突っ込んでいく。
「<ratel>!」
『遅延』の言霊をかけた神の動きが、一瞬ではあるがその言霊を解除するために硬直する。
紺野の真価は、いくつかの『言霊』。
勿論神のように全てを適用することはできない。今気力を消耗している状態で何回か使えるのが『ratel』と『preste』、『stra』も三つだ。
『ratel 』は<対象のごく僅かな周囲の時間の流れを遅くする>、『preste』は<対象物の速さを本当の時間内三秒間で任意の速度に変えられる>、『stra』は<任意の者を収納する、或いはどこかに捨てる>力だ。
『stra』は使い方によるが、収納に関してはほぼ無制限。
『ratel』と『preste』は二、三回がいいところだろう。
身体能力は正直今の玄森とならば互角くらいであり、ステゴロスタイルの紺野では一瞬の隙を作る手刀くらいでダメージは見込めない。
どれだけ玄森のサポートをできるか、といったところだ。
言霊を放った後、紺野はその隙に洛神の膝付近の孔をつき、僅かではあるが体勢と意識を不意打ちでずらしておく。
そこを玄森は見逃さず、また洛神の懐に切り込み胸を袈裟斬りにした。




