白藤さおりのチカラ
エリアに干渉というのは、全世界に能力を解き放った時のことだろうか。
「シン君と上戸さんが戦っているときに、私は粒子化しましたが…数年かけて身体を構築している間、私の精神は別の所に居ました。そこにいるときに、私はこの世界の管理者…平たく言えば、神ですね。その神さまに私は<条件>を言い渡されました。一つ、白藤さおりの身体は、粒子化しても存在が消滅することはない。そして、粒子の能力を使って世界に干渉することは禁じられる。」
おそらく神の管轄からも白藤は外れているため、消すことができないのだと言う。
「私はこの世界の、傍観者なんです。人間という括りからも外れている、異端の者です」
「あの、すいませんが…」
白藤にですます調を使われると居心地が悪い。詠斗は一旦話を遮って、白藤に普段の口調にすることを求めた。
「じゃあ、そうさせてもらうかな。見たところ詠斗さんも、当時の私と同い年くらいみたいで」
「白藤さんは、大きく言えば理の外にいる存在ということですか」
「そういうこと。このエリアの人たちは、私を捕獲してまた研究を動かそうとしているけど…恐らく無理」
でも、と白藤は切り出す。
「そこにいる彼女が創られてしまった」
白藤の懸念は、やはりサオリのことだった。
「上戸さんが何をしていたのか、私は怖くて知りたくなかった…だからこのお家には例外的に粒子を入れていなかった。まさか私を複製しているなんてね」
白藤本人も、何らかの形で自身の因子が特殊であることを知っていたようだ。サオリはそれを改悪され、無限の攻撃型能力を発動することが出来る。そう言おうとしたときに、サオリは白藤に敵意むき出しで二人の間に割って入った。
「お姉ちゃん、キライ!サオリはお姉ちゃんと似てないもん!」
姿はほぼ同じなのだが、と詠斗は内心突っ込みを入れる。
「…随分嫌われちゃったね」
白藤の儚げな態度がますます気に入らないのか、サオリはきつい表情で白藤を睨みつける。
サオリの苛立ちが強い。彼女の周りに歪な空気の流れが構成され始めているのを感じ、詠斗はサオリを窘めようとするが、落ち着く様子をみせない。
「シン君の力、か」
「キライ!」
サオリが白藤を突き飛ばすように両手を伸ばすと、濃い密度の歪み…空気を圧縮したような力が放たれる。
「さ、サオリさん!」
攻撃が当たると、白藤は霧散した。
「あっ…」
能力を使ったことに、サオリは戸惑ってペタンと座り込んでしまった。
白藤はすぐに霧散した身体を元に戻し、実体化する。
「大丈夫。びっくりしたでしょう?」
「それが…白藤さんの今の…」
目の前で霧散されると、心臓に悪い。
「こういうこと。物理技はこんな感じで受けることがないの」




