御内の能力・『神読』
培養液は以前使った時のような効力は期待できなかった。
だが経口摂取させたことで、精神リンクによる消耗と覚醒剤は特筆すべき速さではないが確実に効いている。
「サオリさん、サオリさん…!」
玄森と紺野が、神への時間稼ぎをしてくれている。
その間に、サオリをあの神域らしきところへ運べれば御の字だ。
詠斗にもあまり猶予はない。
先ほどの神との対峙のツケが早くも始まりかけているのだ。
先ほどの攻防は詠斗の脳力と視力をフル稼働したおかげで成功したのだから。
詠斗は能力者としての異能ではないが、レクス社に作られた能力強化人間の例に恥じない力を持っている。
詠斗の能力。それは脳内の神経を100%自由に活性化し、使用できるというものである。
この力を使えば、身体の痛覚を遮断しながら思考力を爆発的に飛躍させ、いうなれば未来予知や完全回避など『最善の一手』『最小限の力での一撃必殺』といったことが瞬時に導き出され、行動・攻撃することができる。
だが、勿論この能力は万能ではない。
一般的な人間の日常的なひらめき・直感と変わらぬ速さ、いやそれよりも早い速度で『答え』を導き出すため、その力を維持し続けることはできない。
そして、その力を行動に移すためには人間の能力を超えた動体視力や集中力が必要になる。
詠斗は脳の神経速度と集中力を極端に重視し高められているため、それについていく体力がない。
本来であれば、詠斗はその意味でも能力を発揮できない『不良品』だった。
能力があることは事前のレクス社のデータでも検査でも判明しているうえに、詠斗も何となくそんなことができる、という感覚はあったのだが、詠斗は使う必要に迫られなかったため、その力は眠っている状態だった。
今、詠斗は圧倒的に足りない身体能力を、『視力』と『集中力』を凝縮することで補った。
だが、この代償は賭けだ。
この一瞬でも、視神経と脳の神経が僅かに焼き切れている。
乱発も維持もできないのは明白だった。
神経が麻酔なしで焼き切れるという想像を絶する痛みを、痛覚遮断で強引に抑え、そんなことはどうでもいいとサオリのだらんと垂れた右手を強く握り、彼女が目を開けることをただただ一心に願った。
白衣の胸ポケットに入れていた巫女から受け取った勾玉ペンダントが、深く入れていたはずなのにいつのまにかサオリの顔の側まで垂れかけているのに気づかなかったのだが、サオリの頬にその紐が触れると、またあの時のように淡い緑の粒子が飛び散ったように思えた。
(…サオリさん!)
「エイト…?」
粒子を吸い込んだサオリが、いつものように呟いた。




