リィエンVS神②
左脚だけで、リィエンは強がるように立つ。
得物はまだある。よもや腐食されるとは思わなかったが、今の攻防で収穫はあった。
完全にその威力は模倣できないが、弱体化した『腐食』を載せることはできそうだ。
自分と闘れば、相手はリィエンを殺せない限り模倣されたその人の力で攻め立てられていく。
まだ、リィエンのプライドは負けを認めていない。
(異常なまでの戦闘への闘争心…。相手ではなく、あくまで戦闘に対してがこいつのスタイルか。
絶対の自信。この神にはそれは無意味だと勘付いていても、闘ることをやめられない、か…)
紺野はリィエンの気概に、賞賛と憐憫の言葉を内心覚めたように紡ぐ。
スイ・リィエンもまた、<能力>に飲まれた人間なのだ、と。
そんなリィエンを、神は心底面倒くさそうに一瞥する。
――――まんま垢ぬけない青年である桜井一馬の姿で。
「なんだ…その表情は。私を馬鹿にしているようだな。足一本で勝ったと思っているのか?」
<…wh>
神の表情に、リィエンのプライドが一気に沸騰する。
紛い物の姿で、紛い物だった桜井の分際でそんな顔をされるのは心外であった。
バグナウの替えを出し、左脚に力を集中させる。
接近戦で腐食が放たれるのならば、遠距離策を取るまでだ。
今まで得てきた攻撃の能力を集約させ、それに『腐食』を混ぜ込む。
今のところ、神に急所は見つけられないが、この威力を当てれば肉体のどこかに傷を負わせられる。
そこから綻んでくれれば、勝機を見つけられるとリィエンは見込んだ。
事実、神の力は強大すぎて桜井一馬の身体の器が耐えきれていない。
人間に神が受肉するなど、本来はキャパシティが持つわけがない。
賽因子、そして擬態を持つ一馬の身体だからこそまだ持っているようなものだ。
「喰らえ!黒龍よ!!!」
リィエンの渾身の一撃が、神を全方向から撃ち抜こうとする。
逃げ場はない。逃げてもこの波動弾は追尾し必ず当たる。
そして、少しでも掠ればあらゆる力を込めた効果で神だろうと肉体を焦がす一撃だ。
神は憐れむような顔を崩さず、ただ左手を前に出し、人差し指をクイッと上げる。
…波動弾は、またしても劇物に溶かされたように空中で朽ちていった。
波動弾の残骸が、ボトボトと地面に僅かに墜ちるとそこには深い穴ができた。
< te sgil…>
神が終わりだ、と言わんばかりに立ち尽くすリィエンを一瞥すると、リィエンの全身が一瞬で全て溶けてしまった。
(バカ…な…!!!)
リィエンが何かを言える間も、行動する時間も与えられなかった。
だが、その最期の顔は間違いなく、リィエンの人生で初めてであろう絶望に満ちていた。




