神、再誕
神の悲しみの咆哮は、一か月以上遠雷と豪雨となって響き続けたという。
地上の大半は沈み、人が住むことができる土地は半分以下になった。
後に生き延びた人がたどり着いた場所こそ、現在のヤンガジ地区であり、そこには力を使い果たし休眠状態に入っている神の身体の切れ端の切れ端…が血だまりの中に落ちていたのを見つけ、”食われた”と思われし者の身に着けていた腕輪もあったことから、この得体のしれない存在を供養するために祠と墓石を立てたのだった。
<arvakista noveles…la zett dasast…”mikoto"…>
「まいったな…こりゃ」
超越者故に楽観的な紺野も、諦めたように言わざるを得なかった。
宙に浮いていたミイラは、桜井を吸収しその力で受肉をしたようだ。
視界を閉ざす嫌な気配を持った光が放たれ、姿を現したのは上裸の桜井一馬…いや、桜井拓の身体そのままだったからだ。
違うとすれば、瞳が七色を帯びていることと、雰囲気に神性があふれ出ていることだろうか。
桜井一馬の姿をしたこの存在は、紛れもなくこのヤンガジ地区で長く眠っていた神だ。
<”mikoto"…mr bky,clo yk strm…>
紺野や未だ敵意を漲らせるもその異様さに動けないでいる玄森やリィエンなど意に介さず、神はまるで人の身体になったことがないかのように両手を握っては開きを繰り返すのを何度も確認していた。
人型になれなかった神には、人の姿は憧れだった。
人型になれた歓喜もあるが、本当はあの時間に…ミコトが居る時になれていれば…と神は悔やむ。
「ふ、ふはははは…!そうか!あの若造が食われたことで姿を借りたか…!落ちこぼれの神が…!
これは滑稽だ…!」
焼け焦げた左足も、失った右腕も気にせずにリィエンは立ち上がる。
全てはこの時のために。このときのために彼は運命にも他人にも負けなかったのだ。
「…glgg…sni wtar」
闘志を奮い立たせるリィエンは、その持ち前の筋肉と気力だけで立っている様な状態で、とても戦えるような状態ではない。それを神は対等とみなさなかったのか、左手をリィエンに向けると彼の身体の欠損が一瞬で修復された。
神の言葉は相変わらず分からないが、彼の顔は自身と余裕に満ち溢れ、「さあ闘ろう」といわんばかりだ。
その行為がリィエンの一人の武人としてのプライドに火をつける。
この神を、ぶちのめす。そしてその力を模倣し、全てをねじ伏せる力を手に入れるのだ。




