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スイ・リィエンの過去②

母も父も、物心ついた頃から嫌いだった。

自分を吐け口にする脆弱な精神の母親と、自分にも家庭にも全く目を向けなかった父親。

挙句の果てに勝手に軍属にして利用するためだった?

母との時間がどれだけ苦痛だったとしても、父には関係なく、寧ろリィエンを強化するためと宣う。

そして今、父は自分を容赦なく吹っ飛ばし、叩いてみろと言っている。

心の中のどす黒いものを全て吐き出すかのように、リィエンは父親の顔面を拳で力任せにぶん殴った。

今度が父親が吹っ飛び、リィエンと同じように壁に叩きつけられる。

そこでリィエンは気づく。『自分がされた威力と全く同じ力』で父親は吹っ飛ばされた。

やってしまった、と内心焦る。

元々リィエンは好戦的ではなく、かなり消極的かつ内向的だった。

一度組手をしたあの友だけが自分の味方であり心の拠り所だったのに、彼は忽然と消えてしまった。

それ以外は誰もリィエンを愛するどころか、食い扶持だけが一丁前にあるゴミだと思っていたのだ。

誰からも愛されないリィエンは、友に教えてもらった組手の型を練習することだけが生きがいだった。

まて、軍属になれば、友に会える…?

そんなことを考え始めるようになっていた自分が憎い。

友は『スイは人を護る人間になれよ』とよく言っていた。

軍人は職業として合法に人を殺すのだから、と。

「クク久…フハハハハ!」

父親は瓦礫の中からゆっくりと立ちあがり、パンパンと三回手をゆっくり叩いた。

「スイ、合格だ。やはりあの情報は真実だったということだ!あの女も出来合いの割にはやってくれたな」

父が何を言っているのか、よく分からない。

だが、何か良からぬことを考えているのは揺るがないようだ。

「私についてこい。上官命令だ」

「嫌だ」

「全く、島猿の血を引くだけあって力の差関係なく逆らう…」

リィエンが気づかぬ速度で、父はリィエンの腹を一発蹴り飛ばしていた。

血を吐き出しながら地に倒れ込む実の息子を、父は容赦なく何回も踏みつけ、意識が飛びそうになっているリィエンの頭を鷲掴みにした。

「今のお前じゃ、私とは雲泥の差だ。なあに、直に強くなる」

「…るせぇ、うるせえんだよ、クソ親父…」

朦朧とする中、リィエンは夢か現かの中にいるように呟く。

「<特別訓練>にしてやろう。この能力ならば急速に成長できるだろうな。ああ、心配しなくてもいい。今のお前は、いつ死のうがどうでもいい愚物だからな。居なくなればまた造ればいい」



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