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お願い、お願いだから

「跳宰、頼む、目を開けてくれ…!」

回復薬をかけても一向に状態が良くならないことに、桜井は焦っていた。

命を顧みず自身を守ってくれた彼女を、死なせたくない。

いや、側にいてくれる人たちは、誰一人死なせたくなかった。

桜井は自分が傀儡であることは重々理解していた。

初めは祖父が軍属を推奨してくれたことも、くれていた日常も愛情から成り立つものだと信じていた。

だが自分の姿が叔父である拓とほぼ同じであることを意識してからは、桜井は祖父の愛玩道具として造られたクローンであるという思いが日に日に強くなっていた。

一つ、誰にも言っていないことがある。軍に入ってから能力者因子を注射され、雷の能力を持ってから時折心の中に現れる者がいる。

それは顔のない、貧相な身体をした幼い少年だった。頭部や耳や髪はちゃんとあり、本当にのっぺらぼうのように顔だけがない。

顔がないはずなのに、不思議と感情ははっきりと判る。

だがその少年が表す感情は、悲しみと憐憫の苦笑だけ。現れるのも、桜井が軍人としてグレーなことをするとき、そしてそれに成功したときという限定された時だけなのだ。

その少年が心の中に現れるたびに、桜井は心を針でチクチクと刺されたようなモヤっとした後悔を感じるようだった。

それを振り切るために、桜井は必死に任務をこなしていた。

クローンだとしてもなんだ、自分は自分だと言い聞かせたかった。

そして祖父が後継者として自分を指名し、晴れて司令官になった時に気づく。

司令官として強固な意志を明確にできなければ、結局は高官の傀儡なのだと。

権限を利用し、桜井は遺伝子検査を受けた。

幼い頃にしたはずの検査結果は、祖父が徹底的に処分したらしく残っていなかった。

そのことも、自分がクローンであるという疑いを晴らせなかった理由の一つだ。

結果、桜井一馬はクローンではなかったことが分かった。

政府が開発した能力者因子『sin』を持っている、人工的能力者。

その結果を聞いても、桜井は納得しきれなかった。

そんな不明確な自分でも、永瀬と跳宰はついてきてくれたのだ。

永瀬もあの芹馬という汚い人間から守れず、自分から離してしまった。

跳宰がそばにいるというだけで、桜井はどこか精神を安定させていられたのだ。

「カオル…!!」

ストレスカウンターで計測している跳宰の心拍数が、弱まっていく。

「行かないでよ…僕を一人にしないで…ねえ、跳宰…」

力なく地に付いている跳宰の手を、強く桜井は握ることしかできなかった。

その目には、大粒の透明な雫玉が溢れていた。

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