転送酔い
「やはりここはナイフでじっくりと…」
「いやあ、動物兵の餌にするのもいいと思うぞ」
「サンドバッグにしようぜ。その方が気分がいい」
なんとも下衆な会話する私兵に気づかれぬうちに、礎と高橋は示し合わせる。
(転送機能…ヤンガジ地区へ)
二人とも操作画面は帰還の際から変えていなかった。押せばどこかにはいける。
(転送!)
画面を人差し指でタップすると、礎と高橋は瞬時に消えた。
慌てたのは私兵たちである。
「あいつら、転送機能を…!?!?」
「探知しろ!」
ストレスカウンターでデータべースにアクセスするが、機能は紺野個人のオリジナルだ。
軍部の転送機能なら履歴が残るが、そうはいかない。
衛星写真にも、今のところ二人が検出できない。
「ま、まずいぞ…芹馬高官に殺される…!!」
「おえっ…ここは…?高橋研究員、いますか…?」
「いますよ…」
転送酔いしている礎はなんとか上体を起こし、周囲を見るとそばには高橋がちゃんといてくれた。
二回目の転送に、高橋は目は開けているものの起き上がれないでいた。
「成功…しましたね…」
「そう…ですね…」
起こしていた上体をもう一度地面に横たえ、しばらくぼうっとする。
転送先は気温と湿度がやや高く、少し遠い場所からザザーン…と波音が聞こえている。
寝転がっている地面も、あまり見慣れぬ植物が芝生のように生えていた。
15分ほど経ち、ようやく動けるようになった二人は改めて状況を確認する。
転送地点は深い森の一歩手前にある平原の片隅だった。ストレスカウンターで位置情報を確認すると、<発見できない>となっているが、ㇷヨㇷヨと画面をさまようピンは本土からやや離れた海上を指している。
ヤンガジ地区のそばには来ているようだ。とりあえずは、成功だろう。
だがしかし、何をしていいのかはよく分からない。
本当にヤンガジ地区に来ているのならば、紺野を探すのが先決だろうか。
「…神秘的なところですね、ここ」
高橋が感動を漏らすように呟いた。
礎は高橋ほど感覚が鋭くないが、彼女の言いたいことは理解できる。
「エネルギーが循環しているような感じですよね」
「本土は長年の戦争と都市化のループを繰り返して、土地が瘦せています。でもここは生命力に満ち溢れている」
高橋はこっち、と森の方を指さした。
「何か、ありますね。でもここを抜けるのは正直リスキーかもしれません。惑わしの空気を感じますから」
高橋の感覚は無視しない方がいいだろう。
そう考えていると、ストレスカウンターに着信があった。紺野からだ。
『来たみたいだね。今いる地点に向かうから、君たちはそこで待っていてね』




