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下準備

礎は改めて、瓶の中に入れた粒子を眺める。

空中を舞っていた時とは若干違い、蝋燭の灯のようにやや不規則に揺らめいた光り方をしながら瓶の中で緩やかに動いている。

何故かは分からないが、粒子を見ているとモヤついていた心が少しずつ軽くなるような気がしてくる。

まるでその負が吸い寄せられて、綺麗に浄化されているようだ。

「…不思議、というよりも不可思議といった方がしっくりきますね。これがあの一件を起こしたことが納得できますよ」

素直に感嘆が口から洩れても仕方がない。それくらい、白藤の粒子は礎から見ても特別で異質なものだった。

「あの白藤という女性(ひと)は、何を考えているんでしょうね」

目が少し慣れたのだろうが、距離感が掴めないのか高橋は礎の持っていた瓶にゼロ距離になるくらい近づいて呟いた。

「高橋研究員、近いですよ…」

「失礼しました。まだ、慣れないもので」

「白藤さおりの能力は、まさに奇跡だと思いますよ。上戸前司令官が欲しがるのも納得です。そんな彼女だから、()()()となってあの時から50年経っても、当時の姿のままなんでしょうね」

「超越者…しっくりくる言葉ですね」

「スイ・リィエンと、芹馬高官の思惑を白藤さんは察知している。止めなければいけないと思っているのではないですかね…僕の、勝手な推測ですが」

だから粒子を自分たちに渡したのではないだろうか、と付け足す礎の言葉で、高橋は腑に落ちたようだ。

「粒子は…どこにしまいましょうか?ポケットに入れることはできないですし…」

「ちょっと待って…」

高橋はプログラミング機能を立ち上げ、何やらぶつぶつ言いながら作業を始めた。

「30分、欲しいです。そうしたら独自の機能を作れると思います」

「30分でなんとかなるんですか?」

「システムを流用するだけです。紺野さん、こっそり基礎は入れてくれてますから」

なんのことかは分からないが、高橋の邪魔はできなさそうだ。

「その30分で、ちょっと島を一周してきますよ」

そう言い残して、礎はまず船着き場に戻った。

玄森と永瀬の交戦場所はまだ生々しく残っている。

成功例の永瀬の能力に太刀打ちできる人間はそうそういないと思わせる引力跡。

思わず身震いをしてしまう。

船着き場から島の淵を歩を進めると、島の淵は総じて平坦な岩場だった。整備されているわけではないのだが、思っていたよりも歩きやすい。

どうやら戦闘地以外は、特に変わった部分はないようだ。

収穫がなくつまらないと思ったが、そろそろ30分だ。高橋の居る場所へ戻ることにする。

「できました。持参品のボールペンで実験しましたが問題なさそうです」

高橋は礎のストレスカウンターに何やら機能を追加する。

ブラックホールのように黒い渦巻のアイコンだ。

「紺野さんの転送機能を流用しました。解析した結果、あの機能は多次元を使用されてましたので」

高橋が言うには、紺野の作成した転送機能は自分たちに見せた多次元を呼び出し、時間と時空のねじれを利用して飛んでいるらしい。

「多次元の空間にアクセスする機能と、その中に入れたものをすぐに取れる機能をそのまま使ったらうまくいきました」

心なしか、高橋が誇らしげだ。賛辞のため息が、礎から洩れる。

「とにかく、これで高官には対処できるでしょう。倉庫機能と呼びましょうかね」

では、といって礎は粒子の瓶を二本、高橋は一本をそれぞれ倉庫機能に入れた。

一応取り出しもしたが、問題はなさそうだ、

「さて、紺野隊員のメッセージを届けましょうか。あの外道に」

紺野謹製のワープ機能を起動し、礎と高橋は芹馬邸に帰還した。


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