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ふっかける

高橋が示した感情が甘ったるい、と礎は心の中で悪態をついた。

若干冷めている礎の心を読み取ったのか、紺野は『礎君は?』と悪戯っぽく問いかける。

「君も好きだったんでしょ、柳さんのこと」

不躾に問いかける紺野に無視を決め込むと、何故か彼と高橋はプッと小さくふきだすのを堪えていた。

「何ですか」

露骨に不機嫌になっている礎に、紺野は小さくごめんねと苦笑いをする。

「怒らせるつもりはなかったんだけどさ。デリカシーなかったね、悪かったよ」

「早く永瀬元秘書の所に行って回収してください。異空間にいる柳さんが不憫だ」

まだ拗ねたような態度を崩さない礎に促され、紺野と高橋は折れた木々が転がる林地帯を抜けた。

林を抜けた先は、殺風景な岩場と粗末な船着き場がポツンと設置されている開けた地だった。

まだ永瀬が使用したと思われる小型艇が荒い波に揺られ、その傍らに寄りかかるように永瀬の遺体が佇んでいた。

損壊こそ少ないが、それは玄森の殺人者としての殺しの技術を物語っている。

「漆の身体能力は知っていたけど、ここまでとは思わなかったよ…」

「確かにあの永瀬元秘書を一発で仕留めていますが、何か他にも?」

礎の言葉に、紺野は船着き場近くにできている広範囲の窪みを指さした。

「永瀬さんが能力を使った形跡がある。広範囲且つ最大限の威力でね。普通の人間なら、範囲に入った瞬間ペシャンコになる能力を食らっても、どういうわけか漆はそれを搔い潜って一撃を食らわせているね。じゃなきゃ、あの永瀬さんの不意を突けない」

そして、『その一瞬のタイミングで躊躇なく的確に心臓をつぶしている』と付け加えた。

「成功例の永瀬さんですら、こんなあっさりやられちゃうなんて。やっぱりオリジナルは群を抜いているね」

ポツリと残念そうに呟いた後、一度手を合わせてからストレスカウンターを使って永瀬の遺骸を回収した。

「成功例?」

礎が漏らすと、高橋が補足する。

「永瀬元秘書は、<人体実験の成功者>ですよ、礎隊員」

「永瀬元秘書が?」

「詳細は分かりませんが、噂では初めて人工的に作成された人間だとか。確か、礎隊員が何度か遭った崎下も同期と言われてます」

崎下詠斗。顔を何回か見てはいるが、いつも仏頂面で愛想がなく、明らかに他者に興味ありませんというのを露骨に出す不快な男だ。

だが市街地で会ったとき、資料でしか見たことのない重要人物・白藤さおりに酷似した女を連れていたような気がする。

その時は老人に殴られて意識がなかったうえに、起きてもたまたま居合わせた玄森のほうに意識を向けていたため気にしている余裕がなかったのだ。

ここまで思い出したが、礎は特に興味をそそられなかった。

崎下のことなど、管轄外で知ったことではないのだ。

「遺骸は回収できたから、君たちから芹馬に伝言してもらえる?」

遺骸を回収できなかった理由を説明しなければならないのだから、メッセンジャーにならなくてはいけない。

「…なんて伝えますか?」

「<紺野隊員に、奪われました。ヤンガジエリアで会いましょうと残してます>って言って。そしたら向こうも来るだろうから」

そう言って紺野は笑うのだった。

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