回収①
盛り土の周りには、なにも置かれているものはない。
何かを埋めたことを隠す気もないのか、目印のつもりなのかこんもりと土が雑多に乗せられている。
そんな盛り土の側に寄ると、紺野は一度目の前でパン!と手を合わせ、どう機能を追加したのかストレスカウンターからスコップを取り出し地面を掘り始めた。
遺骸が埋まっていると踏んでか、作業は手早くも慎重。
すぐに柳の身体の一部が見えてきた。最初に見えたのは左腕、だろうか。
元々色白だった柳の遺骸は、死体としての青白い肌色になりつつあった。
『その日のうちに来たから、身構えなくても大丈夫』と、手を動かしながらは礎と高橋を励ますように呟いた。
5分と立たぬうちに、柳の遺骸は掘り起こされた。
ここで起きたことは分からないが、苦痛を感じて死んだのではないことだけは分かる、穏やかな表情だった。
「…右手の小指が、ないですね」
右手を持ち上げると、死体特有のひんやりとした質感が伝わってくる。
小指は鋭利なもので素早く切り取られたようで、肉質の崩れもない。
「玄森漆の仕業ですか」
こんなことを躊躇なくでき、そして思いつくのは玄森くらいだろう。
遺骸の損壊など、礎には理解できない行為だった。例え玄森にとって柳が特別だったとしても、気色の悪い行為であると礎は憤っていた。
「漆にも思うところがあるんだろうね。やっと会えたのに、こんなことになってしまうんだから」
心なしか紺野の顔が憐憫を込めたような、含みのある表情を浮かべる。それは今の礎の心を少しだけ汲み取ろうとする意志の表れもあるのかもしれない。
礎は柳の遺骸を見て呆然としていた。別れるタイミングでも、柳は自分を責める素振りは見せなかった。連れていかれるということに困惑していたのだろうが、それでも「嘘つき」と罵れる場面でもあったと礎は思っていた。
自分を少しでも理解してくれた、しようとしてくれた。一瞬でも興味を持っていてくれた柳を、礎は見殺しにしたのも同然だ。
いずれ死ぬ、殺されるということも判り切っていたことだ。なのに、自分は何もしなかった。
柳の遺骸を見ていると、そんなような自分を責める言葉や心だけが次々と浮かんでくる。
涙を零すこともせず、その場に正座してただただ黙って柳の遺骸を見つめていた。
「礎さん。気持ちは分かるけど…ごめんね」
紺野はポンと礎の左肩を叩き、ストレスカウンターの回収機能を起動させて柳の遺骸を回収した。
「安心して。軍の所には転送されていないから。ちょっと他次元に安置させてもらってる」
「…本当なのか?」
礎が正座したまま視線を戻さず問いかけると、紺野は真剣な表情で『信じてほしい』というのだった。