アルクアラウンド
『超越者は白藤さおりのことか』と礎は紺野に問いかけた。
「知ってるんだ。まあ、50年前の彼らに付くときに聞いてないとややこしくなるもんね」
紺野はカラカラと笑い、そうだよと頷く。
「白藤さんは、もうヤンガジ地区に向かっているよ。止めなければいけない存在がいるからね。僕も二人の遺骸を確保したら向かうつもりだよ」
「止めなければいけない存在…?」
礎はポロッと口に出してしまった後、反射的に手で口をふさいだ。
何らかの機密事項の可能性があるのを忘れていたのだ。
反射的な行動を見て、紺野はクスッと笑った。
「気づいているからその反応なんだろうけど、君たちは僕と組んだ時点でアウト寄りだからね。礎君、君は素直だなあ」
『アウト寄り』という重大な発言よりも、カッカッカと豪快に笑う紺野の『素直』という言葉に、礎は眉間に皺をよせるが、そのやり取りをみた高橋は吹き出しそうになっていた。
自分が素直な訳がない、と心の中で否定する。
自他共に斜めに構えた無礼者と認めているのだ。
それは取り繕って生まれたものではない。素だ。
その角のない会話をできるのは、柳祥子だけなのだと思っている…そこまでが頭によぎった思考だった。
「心配しないで。君たちのことは、ちゃんと守るからさ」
そこじゃない、と思いつつ、紺野は『そろそろいこうか」とマイペースに歩き始める。
「僕たちがいる場所は、船着き場と正反対の位置。森に向けて真っすぐ進めば、二人の遺骸はスムーズに見つけられる」
「遺骸が埋められている可能性は?」
「んー。柳さんは埋められているね。でも永瀬秘書の遺骸は船着き場で放置されているようだよ。勘だけど。この島は大きい島じゃないから、1時間も歩かないで船着き場に付くと思う」
紺野はさらっと自分のことを超越者と言っていた。ストレスカウンターを容易く壊すのをみてから、強ちそれは嘘ではないのだろうと礎と高橋は思っていた。
紺野は木々の隙間を器用に迷いなく抜けて、二人を連れていく。
その間、余裕そうにやや外れた音で適当な鼻歌を歌っていて、全く緊迫感がない。
素でやっているのか、緊張を解すためなのか、意図が分からない分、余計に突っ込めない礎だった。
「さて。まずは一か所」
30分ほど歩いたところで、開けた、いや開かされた戦場の跡地に辿り着いた。
元は森の一部であったであろうボコボコになった荒れ地と、捻じ曲げられた大木。
人間の所業とは思えない地形だった。
「僕も初めて見たけど、湯神って人は相当な能力だったのが分かるねー。これで生き残れた上戸さんもすごいな」
そんなことはまあいいかと呟いて、紺野はその場所の近くにある盛り土に指をさした。