不明瞭な言葉たち
差し伸べられた手に、礎と高橋は正直困惑していた。
「あれ、もしかして怪しんでる?まあ、確かにそうか。突然軍人に、しかも芹馬の奴に従えられている人間にこんな事言われても困るよね。ごめんごめん」
紺野はカラカラと、豪快に笑う。二人の戸惑いも疑心も、全部ひっくるめた複雑な表情の意味をちゃんと分かっているのだろうか。
「貴方は、確か一度お会いしましたね。柳さんに罵声を浴びせた老人を回収してくれた人でした」
礎はこの情報過多の中、紺野と一度会っていることを思い出した。
玄森と共に、柳を助けてくれた人物だ。
ほぼ同じ頃、高橋も隠れて玄森を監視していた際によく一緒にいた人物であることを思い出していた。
「あ、覚えててくれたんだ。あの時は君も大変だったね、礎さん。あと、高橋さんも。あんまり付いて歩くと、アイツは怒るしね」
どうやら紺野は、色々深い事情を理解しているようだ。
「君たちに予め聞きたいことがあるけどいい?」
紺野は手をパンパンと一度払い、笑顔で問いかける。
「礎君と高橋さんは…本当に柳祥子と永瀬豊の遺骸を回収したい、かな?任務とかは抜きにして、私情を答えてほしい」
薄っすらと開けられる彼の目は、話しかけてきたときとはうって変わって暗く沈む。
急速に闇に沈んだ瞳からは、微弱な威圧感を帯びた真剣さが漏れ出ているようだ。
彼の意図はイマイチ読めない。正直に答えるべきか、濁すべきか。
それにニホンエリアは監視システムが徹底している。こんな発言をしていれば、紺野自身制裁は免れないはずなのに、彼は何も気にせず自由に発言しているように思えるのも気になる点だった。
「…柳さんがいれば、玄森さんは救われるのでしょうかね。もし救ってくれるとするなら、私は復元行為自体は望まれることだと思っています。でもそれは結局、彼ら人生や人権を全て冒涜するもの。根本的な解決にはなりません。そして永瀬秘書のことは、私はよく分からないのでなんとも言えません」
高橋が小さな声で答えると、「礎君は?」と話が振られる。
「私は…柳さんが蘇ってくれても感情は半々です。私に都合のいいような存在には、決してしてもらえないのは目に見えていますから。それに、高橋研究員の言う通り、結局は彼らを何も認めていないだけですから」
礎が答えると、ふーん、と紺野は鼻息を漏らし、再びにこやかになる。
「ありがとう、答えてくれて。僕と似たような考えで、嬉しかったよ」
じゃあ、行こうかと紺野は行き先が決まっているかのように踏み出していく。
「貴方の狙いは、なんですか」
礎が問いかけると、紺野は振り向かずに
「思い通りにさせたくない。それだけだよ、僕はね」
と答えるのだった。