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言葉にできない

真剣な非常を一瞬だけ見せて、またいつもの皮肉めいた笑みを浮かべる礎には、嘘偽りはなさそうだった。

高橋は彼なりの本音を聞いたことで、礎を形作った因縁のような、根深いものを感じ取っていた。

ここ20〜30年で、娯楽文化や芸術に対する否定、というよりも一方的な嫌悪感の高まりは顕著になった。

今や文学だけではなく、賭博やスポーツ、演劇や音楽といった芸術、果ては建築物のデザインまで厳しい目が向けられる。情緒的なものは「無駄」であるという感覚は一般市民にも根付いている状況だ。

大戦が終わった頃、生き残った人々は生きるということに精一杯で「夢や理想、励ましで飯が食えるか」と生きる術以外のことを全否定した。今でも無駄を一切省いた極めて合理的な手法・思考が好まれ、それ以外は生産性や能力を削ぐものとして認めることをしなくなったのだ。

文化があるからこそ、人は豊かに生きられると思う人間はごく僅かで、実に殺伐とした世界。それが現代だった。

高橋は何か礎に言いたかったが、うまく言葉が出なかった。

この「否定」は、簡単に解けるものではないことが高橋にも良く解っていた。

「…何も言わなくていいですよ。仕方のないことですから」

礎は歩みを止めず、振り返りもせずにやや鼻につく口調で乾いた笑いを含ませながら呟いた。

「分かってもらえない」というのが、礎の精神の奥まで根付いているのだろう。

何も言えないまま、その後は黙って廊下を歩く。

「着いたぞ。転送室だ」

軍人がロックを解除し、転送室を開ける。

殺風景な部屋に、巨大なコンテナタイプの転送ポータルが一台。それを挟むように個人転送ポータルが二台、怪しく暗闇の中で淡く光っていた。

「お前達には、コイツが同行する。変な気は起こさないことだ。まあ、起こしたところで何もできないだろうがな」

高橋に付いていた軍人が残り、もう一人はすぐに転送ポータルを操作する。

「準備完了。女、お前から入れ」

淡く輝き出し、準備が完了したポータルに高橋、礎、軍人の順番で乗って行く。

フオン…と浮遊するような音と感覚を一瞬感じ、瞬きした間に転送は完了していた。

「ふー。やっぱりあそこは肩がこるなあ」

突然、今まで無言を貫いていた軍人がペラペラと喋り始める。

思わぬ言動に礎と高橋が硬直していると、軍人は被っていたマスクを外し投げ捨てた。

「や、お二人さん。僕が君たちの一応お目付役。紺野と呼んでほしい」

紺野は暑苦しい、と言って分厚い装甲も脱ぎ始めた。屈強な身体と思っていたが、装甲を脱いだ紺野はかなりの痩せ型で、マッシブな肉体とは程遠かった。

「僕にも一応、目的があってね。君たちとはいい関係を築きたい」

そういって紺野はググッと手を伸ばし、爽やかに笑いながら二人に手を差し伸べた。


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