愚問
軽口を叩く礎を、兵士は軽く小突いた。
「入るぞ。失礼のない様に。悪態をつけば五体満足でいられると思うな」
ガスマスクに隠されているはずの表情が容易に想像できるくらいの威圧感。
あまりふざけられないな、と高橋に会って気が緩んでいた態度を改めた。
高橋と共に並ぶと、兵士は木の扉を押して開ける。
扉の真正面に芹馬の執務机が設置され、彼は気持ちの悪い歪な笑顔で礎たちを出迎えた。
部屋はやや広く、趣味の悪い大型動物の剥製や往年の銃器類が所狭しと端的に並べられている。
床には獣革を繋ぎ合わせたカーペットが引かれ、歩きづらいことこの上ない。
高官という存在がそもそも一般人には馴染みがなく、プライベートなど完全に分からないのだが、この芹馬という男が悪趣味な存在だというのは瞬時に理解できた。
「待っていたぞ、礎隊員と高橋研究員。ああ、兵は下がるように」
芹馬が命令を下すと、兵士は敬礼して部屋から速やかに退室する。
「…さて。何から話そうかね」
ねっとりとした目線で、芹馬は礎と高橋を見つめる。
二人は芹馬が要件を話すまで硬直したように無言で待機するしかない。
「通知を送ったように。<クローデル>…確か、人間名はヤナギだったか?その兵器の生体反応が途絶えた。そして、同伴していた永瀬秘書の反応もだ」
永瀬。桜井に就いていた忠実な男も死んだと言うのだろうか。
「永瀬は有力者と思い引き抜いたが…とんだ見込み違いだった」
期待外れという失望を隠さず、芹馬はブツブツと小言を言う。
だがその小言に悲壮感はなく、まあいい、と彼は呟いた。
「お前たちは桜井司令官の指示で、あの二人に付いていた当事者だからな。ああ、お前たちの所属も既に、桜井の若造から私に移っている。死罪から救ってやったんだ、有難く思え」
やはり礎と高橋は、死罪になる予定だったらしい。
それを、芹馬が助けた?のだろうか。
「お前たちにはこれからツク孤島群に行き、<クローデル>と永瀬の身体を回収してもらう。礎隊員には再び、<クローデル>の付き人になってもらうぞ」
柳が死んでいるのが明確なのにも関わらず、付き人にするという芹馬の言葉を聞いて二人は嫌な予感がしていた。
「…回収して、どうするおつもりですか」
答えは半ば分かっている、それでも確認の為に礎は言葉をひねり出すが、芹馬は愚問と言わんばかりに答える。
「勿論、復元だ。それ以外に何がある」
そんなことも想像できないのか?と、芹馬は頭の足りない者を見るように礎を露骨に見下した。