成人サオリと幼児サオリ、そして
成人サオリは<約束>のことを語り出す。
まず前提として、幼児サオリは詠斗のことを<あるじ>と認めている。
詠斗から条件を付けて何かしらの約束をすることで、一時的に約束の内容を確認するために成人サオリが引き出される。成人サオリは本来存在しなかったが、幼児サオリが瞬間的に創り出したものなのかもしれない(成人サオリにも定かではない)とのことだった。決して精神が著しく成長して持続させられるわけでは無いらしい。
その説明をした直後、成人サオリは瞼の重さに耐えられず目を閉じてしまった。
「サオリさん?」
「エイト、お姉ちゃんの時間、終わり」
次に目を開けた時には、幼児サオリに切り替わっていた。
「さっきは強引にぶつかったり、飛んでごめんなさい」
指をモジモジさせてサオリが謝るのを、詠斗はまだ無表情ではあるがそっと頭を撫でた。
「分かってくれればいいんです。さ、今日はもう寝ましょう。私も疲れたし、サオリさんも飛んで疲れたでしょう?」
「寝るう…」
急に眠気が来たのか、サオリは目をクシクシと擦った。
詠斗はサオリを崎下の寝室に連れて行った。崎下のベッドはダブルベッド。サオリを一人にするのはまだ無理だろうから、ここで二人で寝ることにした。
「エイト、一緒?」
「一緒ですよ。嫌ですか?」
「ううん、嬉しい」
二人で両サイドからベッドにそれぞれ潜り込むと、サオリはすぐに寝てしまった。
(サオリさんを守る、か…。今日の<翼>で、片鱗は分かった。でもこれが序の口なら、先が思いやられるな…)
翌日、寝坊待った無しの詠斗を、サオリがペチペチ頬を叩いて起こす。
「エイト、お仕事行かなくていいの?」
「あー…仕事、ですか…」
嫌そうに詠斗は起き上がり、ベッドから出るとグッと伸びをした。
「サオリさん、今日も留守番頼みますよ」
「分かった。ねえ、夜お散歩しよ?今日もリューセイ見れるかな?」
「流星はないですが、そうですね…歩いてみましょうか」
「うん!待ってる!」
寝癖頭のまま詠斗はジャケットを羽織り、サオリの頭を一度優しく撫でて出勤した。
「詠斗君、遅いぞ。また寝坊かね?まあ、昨日は遅くまで書庫にいたようだね」
黄瀬が若干心配そうにしているが、詠斗は意に介さない。
「今日はまた別件があってね…」
「研究のことですか?」
「あの書庫に立ち入ったのは、ここ数年で君だけなんだ。実は他の研究員には、極秘書庫の存在は伝えていない。50年前のことを知ったのは君だけだ。その過去に関係する話だ」