嘘だ!
礎は殺されていなかった。
検査を見送れば、口封じのために殺されると思っていた。、睡眠剤を打たれ監獄棟に行ったまでは予想は合っていたものの、牢に入れられてから殺されることはなかった。
牢も独房タイプで、監獄棟の中では比較的環境が良いといえるフロアにあるものだった。
ストレスカウンターの機能は柳へのメッセ―ジ機能と追跡機能が抹消されていた。
今は柳がどうしているのかは、礎には知るすべはなくなっている状態だった。
着ていた服や白衣はそのままだったため、礎は隠しポケットのある部分を小さく手で破る。
中にはバックアップデータを入れた極小のメモリーチップを隠していたのだ。
これをストレスカウンターに挿入し、独自のアプリを入れることで消された機能を復活させられる。
様子をうかがっていると、看守が来るのは一時間に一回。監視カメラが埋め込まれている形跡もない。
看守が完全に通り過ぎたあと、礎はメモリーチップをベッドの中で挿入し、ストレスカウンターを操作する。
復元にも通常はロックを解除しなければならないが、抜け道を礎は知っている。
難なく機能を復元すると、柳の生体反応が赤ランプで激しく点滅していることに動揺する。
赤ランプの点滅は、精神が不安定になり、尚且つ心肺機能が衰えているという状態を表しているのだ。
(柳さん…!?)
動悸が激しくなる。心臓の音が、息を殺して反応を見ている礎の耳にバクバクと強い音を出している。
次第に赤ランプは薄くなっていく。これが消えてしまえば、柳は死んだという事になる。
(柳さん、だめだ。柳さん。逝かないでください…!)
礎の願い空しく、数十秒後に柳の反応が消えてしまった。
「柳さんの反応が…」
信じたくない。ダメ元でメッセージ機能を立ち上げるが、画面には『not found』と表記された。
生命活動が停止すると、メッセージ機能は自動的に使えなくなる。
やはり、柳は死んだのだ。
「嘘だ…」
柳の能力は殺傷力・応用力の高い力で、軍が主導し発現した能力者たちの中でも最上位のクラスだろう。そして、柳本人は高い知性を持つ。
まず並の者では太刀打ちできないのが<クローデル>だ。
そんな彼女が負けたということがまず信じられなかった。
ベッドの中で、礎は震えることしかできなかった。
『何もできなかった』という思いが、礎の心を深く闇に落としていた。
『何故そこまで知っていて…お前はなにもしない!』
玄森のあの言葉を、何回も反芻している。
何かをしていれば、この未来は変わっていた?
だが、死んだという事は事実だ。
<芹馬高官よりメッセージ>
ストレスカウンターが急にメッセージを受信する。
しかも諸悪の根源である芹馬からだ。
慌てて確認すると、『<クローデル>の回収命令』が表示され、同行には高橋を付けると添えられていた。