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何故?と問い直すのは無粋だろう。

今の玄森は感覚が人智を超えるレベルで研ぎ澄まされ、遠くのことも正確に感知できるのだ。

その状態である彼が出した言葉なのだから、信じるしかない。

自動航行している間、玄森はデッキに出て黙って進行方向を凝視している。

一応小型船にも風圧無効化の機能が搭載されているのだろう。それでなければ即風圧で吹っ飛ばされている。

依然として話しかけ難いオーラを出している玄森だが、船室の窓から彼のことを眺める詠斗に一度クルッと顔を向け、無機質な顔で黙っている。詠斗の間の抜けたような表情をしばらく見ていたが、反応が変わらないのを知りまた前を見直した。

何かを言いたいのだろうか?目線をずらした後も、玄森は組んだ腕をトントンと指でやや規則的に叩いている。

詠斗は船室から出て、玄森のいるデッキに登った。

やや肌寒かったツク孤島群とは違い、温室のように一定の温度が保たれた無風の空間になっていた。

「…何か?」

詠斗がそう呟くと、玄森も逆に『お前こそ何だ』と聞き返す。

「私のことを見て、黙っていたので」

その行動が不思議に思えてここに出てきたのだから、偽りでも何でもない。

「一応軍属だったお前をすぐに殺さなかったのは…お前は憎くないのか、と思ってな。サオリという女を下劣な軍に奪われただろう」

「憎い…ですか」

玄森に言われて、目まぐるしく考えた。

詠斗に『憎い』という感情はどこにもなかったのだ。

普通なら、大切な存在を目の前で奪われれば怒りや憎しみ、悔しさ、悲しさが湧くだろう。

だが、詠斗にはそれがなかった。

ただ、サオリのことを守らねば、という気持ちだけが先行していた。

「私は…サオリさんとただ静かに暮らしたいとしか願っていませんでした。だから今も、『取り返す』としか思っていません」

詠斗が静かに、真剣に答えると、今度は玄森が意外そうな顔をした。

「取り返す。そしてそれ以外の意味も何もないというのか」

「はい」

「取り返せる可能性があるだけ、まだいい。だが、あいつらは合理と保身という面でしかものを見ない。それは気を付けることだ…」

乾いた口調でそう呟いて、玄森はまた黙り込んだ。

「貴方の大切な人は…一緒に来たあの人でしょう。確か、名前は…」

「柳祥子だ」

「柳さん。私はデータで彼女の情報を閲覧させてもらってました。もしかしたら、柳さんは、もう一度…」

言うな、と玄森は詠斗の言葉を潰した。

「分かっている。その可能性が十分にあることはな。だが、それができない可能性も十分にある」

「…?」

いまいち理解ができない詠斗とは対照的に、玄森は僅かに、気づかれない程度に笑うのだった。


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