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船出

突き刺したブレードを素手に敢えて戻し、心臓を完全に破壊してから手を引き抜く。

その感触は以前ならこれ以上ない快楽にも、もっと以前なら心の底から嫌悪する不快にも感じられたのだろうが、今の玄森には特に正負の感慨も湧かない、必要だから行ったという限りなく感情に抵触しない行動だった。

永瀬は手が引き抜かれた時点で既に事切れていたが、刹那に見せた最期の顔は憐れみの顔に見えた。

それは玄森のこれからを意味しているのか、それともかつての試験体だった詠斗への何かだったのか。

真意は計りかねるが、普段隠されて全く判らなかった永瀬の本心が含まれているようだと詠斗は感じていた。

血まみれになった右手をブルブル振るい、玄森はクルッと詠斗の方を見て、強制的に詠斗とのリンクを切った。

バチンと回線が切れたように、詠斗の頭の中に閃光が走ったようだった。

「…予測の力は、たいしたものだな」

対してこの状況…あの永瀬が瞬殺されたという異常事態にも動揺していない詠斗だったが、玄森の顔はそれ以上に無だった。

大切なものが抜けた玄森は、危険度ならばオリジナルよりも高く、そして救済の方法もない。

『軍の人間の皆殺し』という目的以外のものは、何もないようだった。

対して詠斗は、永瀬の最期の表情と、それをゴミを見るような玄森に自分でも意外な程動揺していた。

関心のない人間の顔など、即忘れる上に対して意味も見出さないはずだが、今は妙に脳にこびりついている上に、心臓がバクバクと音を立てている。

どうしていいか分からない。いつもなら淡々と何も籠らない声で『褒めていただきありがとうございます』と言えるはずなのだ。

無から発する異様な威圧感が、詠斗の言葉を封じ込めている。

口を一文字に結ぶ詠斗を、玄森の真っ白なまつ毛の下に隠れた純黒の目が覗いていた。

「まあいい。行くぞ。油を売っている時間はない…」

玄森は踵を返し、船着場にある小型船の中に入っていく。

気にも留められなかった永瀬の遺体をちらっと横見して、駆け足で詠斗も船内に入った。

玄森は勝手が分かっているのか、まっすぐ操縦室に向かい慣れた手つきで操作をする。

小型船はリング状の指示器のボタンを押すだけで、地図で行き先を指定し自動航行してくれる。

「行き先は二つ。俺の目的はキュウシエリアだ。恐らく交戦中だろうからな。そこの両軍兵をまず俺は殲滅する。そして、お前はそのままヤンガジ地区に行け。船は自動で進んでくれるから安心しろ」

「ヤンガジ地区?サオリさんはキュウシエリアにいるのでは?」

永瀬と戦う前に、確かそう言っていたはずだ。

「状況が変わったようだ。サオリ…は単体でヤンガジ地区に向かっている」



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