VS永瀬(2)
不意を突いた今なら当たると思った、と玄森は不満げにブレードを見つめた。
「次は、ないな。確実にアンタを掠め取れる」
ルーティーンのように二度軽く足踏みをし、玄森はもう一度永瀬の懐に飛び込む。
(確実に以前よりも速い…だが、まだ私には許容範囲だ)
玄森のブレードから放たれる引力の度合いを、既に永瀬は理解していた。まだ付け焼刃である今のうちなら、よほどの手を使われない限り充分にいなせる。
その手のブレードにひどく自信があり、尚且つ時間をかければかけるほど、この男は引力を使いこなしていくだろう。余裕ぶっている場合ではない。
「≪テオ≫…」
永瀬がそう口走ると、今までで一番強く発現された藍色の引力の塊…大きさで言うならば、永瀬の前方に向けて小さな野球場ほどの範囲にその塊が落ち、確実に玄森を範囲内に入れた。
後は玄森の身体は原型を留めないほど押しつぶされ、捻じ曲げられて終わるだけのはずだ。
≪テオ≫は永瀬の最大級の引力を発現する技だ。引力の強さで、下手をすれば時間すらも止められる。勿論これを使うには、相応の体力を消耗する。
余裕そうに見せてはいるが、疲労感は呼吸に漏れ出ていた。
勝利を確信し一歩引こうとしたその時、藍色の塊から何かが蠢ていることに永瀬は気づいた。
そして、その蠢いている者は激しく動きながら、こちらへ向かってきている。
(生きている…のか?あの凄まじい力の中で…!?)
時間にすれば一瞬だが、永瀬は脳を目まぐるしく動かしていた。
答えを出す前に、それは引力を切り裂いた。
藍色の空間が、まるで風船が弾けるかのように激しい爆風を伴い砕けたのだ。
「何を…した!?」
「空間を切り裂いた。それだけだ」
玄森の身体に、目立った損傷はない。
ブレードにも、引力が纏われている以外特別変わったこともない。その引力も、不意を突いたときと同じ威力で、到底この圧倒的な力を捌けるとは思えなかった。
人智を超えている、と初めて永瀬は恐怖する。『これが50年前の能力者』かと。
「終わりだ」
不意を突かれた訳ではなかった。しっかりこの玄森を目で捉えていたはずだった。
だが、その挙動が全く見えなかった。
永瀬が身構えようとしたその間に、玄森のブレードが心臓を的確に捉え、捻るように貫通していた。