VS永瀬
永瀬は重厚な雰囲気を崩さず、静かに玄森と詠斗を目視する。
初めから、詠斗たちがこの場所に来るのが分かっていたようだ。
「やはり、あの方が…その選択肢を選ぶと思ったのは間違いではなかった」
永瀬は何かに納得するように、ウンウンと二度頷いた。
「永瀬豊。邪魔をするなら、お前も殺す」
手をブレードに変える玄森に、永瀬は微かに嗤う。
「…今のお前からは、以前とは全く異なる力を感じる。だが私も、引く訳にはいかない」
ゆっくりと永瀬はサングラスを外し、朱く輝くレクス社の紋様を露にさせた。
「詠斗、俺の背に触れろ」
有無を言わさむ言葉の厚みを感じ、言われるまま背に触れると何かが一気に詠斗の中になだれ込んできた。その勢いに反射的に手を離すと、詠斗の視界が一部玄森とシェアされていることに気付いた。
(アンタは全てを読み切れるんだろ?今、アンタの感覚は俺と共有されている。俺に指示を出せ)
玄森は思念で言い終わるとすぐに、永瀬に突っ込んでいった。
「小手調べから行こう…」
まだ玄森自身の攻撃範囲に詰め寄れていない。永瀬は引力を強めに発現し、押しつぶそうとしている。
(右へ1歩ずれれば)
回避するためにはその程度の動きで十分と詠斗が考えると、ラグなく玄森がその通りに動いた。
強い引力は玄森と紙一重で当たらず、地面をひしゃげる。
「面白い。やはり以前のお前とは明らかに違うな」
永瀬が刹那でそう呟くのを聞いたが、もう刃は届く範囲。手加減はしない。
体勢もまだ構えていない今がチャンスだ。
(…!距離を取れ)
永瀬から何かを感じ取った詠斗の指示に、玄森は一瞬躊躇したが従う。
身体には当たらなかったものの、僅かに永瀬の攻撃範囲に掠った右手のブレードの先がグニャグニャにねじ曲がっていた。
それだけでは終わらない。ブレード化が激痛と共に強制的に解除され、中指の第一関節が砕かれていた。
「ぐ…」
「接近戦で挑むお前に敬意を表した」
目をよく凝らすと、永瀬の両手から高密度の引力が練り上げられているようにみえる。その引力で手刀を強化し、玄森のブレードを受ける算段らしい。
その引力の手刀が掠っただけで、玄森の変質を解く程の威力を持っているのだ。
だが玄森はあまり焦っていないようだった。右腕をグルンと大きく一回転させると、再びブレードを創り出す。
「馬鹿の一つ覚えか?」
そう言った永瀬の顔は、いつもの涼しい顔ではなかった。
新たに造られたブレードから、自身の気配を僅かに感じ取ったからだ。
「すぐに分かる」
全く同じように、玄森は永瀬の間合いに入る。
そのまま打ち合おうと永瀬は構えるも、ブレードに身体ごと強く引き寄せられ体勢を崩した。
(引力が…伴っている!?)
咄嗟に手の引力とは別に能力を発現し、玄森を後方に控えている詠斗の方へ弾き飛ばし事なきをえた。