利害の一致
「…ショーコ?」
柳の身体が、急に重たくなる。
「おい、嘘だろ。これで最期なんて認められるわけないだろ…なんで、なんでなんだよ!」
この脱力が、命が潰えたからなのは昔の経験で嫌というほど知っている。
だからこそ認めたくなかった。二回あった人生の中で、一番記憶に残っている人がいなくなることを。
ついさっきまで生きていたのに。そして、あの時の柳のままならば、こんな結末にもならなかったのにと、玄森は悔やんでいた。
「結局俺は…祥子の人生を壊してしまった…」
赤みが抜け始めている柳の身体を、玄森は子供が人形を抱えるように強く抱いた。
『対象、発見。直ちに回収を』
ささやかな余韻をぶち壊すように、騒がしい足音と装備の擦れる音が玄森と詠斗をとり囲んだ。
「<リッパー>、貴様はヤンガジ地区に召集される。我々と共に来るのだ。ああ、<クローデル>はまた再生される。安心しろ」
「…」
「時間が惜しい。早く立ちあがれ。立ちあがれないなら…」
再び言葉を発しようとした兵士の首は、気づかぬうちに地面に転がっていた。
「ヒッ!?」
あまりの速さに、他の兵士たちは後ずさる。
玄森の怒りには、詠斗だけが気づいていた。いや、詠斗もサオリを兵器化されたことに憤りを覚えていた。種類は違えど、同じ感情を二人は抱いていた。
「…皆殺しにする。それが俺の、祥子への手向けだ」
「か、構え!大丈夫だ、こちらには跳宰軍曹から預かっている機能g」
「…煩い」
単なる一兵士では、玄森の動きなど捉えられる訳がなかった。
有無を言わさず、防具の隙間を縫うように斬りつけ確実に命を奪う一撃を与えていく。
ものの数十秒で、兵士たちはあえなく全滅した。
「…船があるな」
玄森は手のブレードを一旦消し、唖然としている詠斗の方へ振り返った。
元々光のない目をしている玄森だったが、今の彼はそれ以上に死んだ目をしていた。
何者も入ることが出来ない、絶対的な深い闇。憎悪と憤怒が色濃く混じった、もう誰にも手を打てないと思わせる目だった。
「おい、お前名前は?」
「崎下…詠斗、ですが」
思わず口調が固くなってしまう。玄森はジッと詠斗を見定めるように眺めたあと
『来るか?』と静かに告げた。
「俺はこれから軍の人間を皆殺しにする。お前はあの女の元に行きたいのだろう?丁度行き先は殆ど一致する。悪い話じゃないだろう」
「サオリさんの行き先…貴方は知っているんですか?」
「恐らくだが、すぐに実戦に使われるだろうな。キュウシエリアで、戦闘が始まっているだろうよ」
普通なら、悪魔の囁きだろう。だが玄森の言葉に嘘がないというのは何故か信じられる。
「…私は、サオリさんを元に戻す。その為なら」
「交渉成立だな」
玄森の笑みが深い憎しみに満ちていたのを見て、詠斗ですら寒気を覚えるのだった。