小手調べ
唐突に芹馬が言い放った兵器化完了の言葉は、ますます玄森を困惑させる。
対照的にクローデルはサオリの力を図ろうと好奇心を持っているようだが、玄森から見たサオリは全く異質なものだった。
リィエンと対峙した時よりも計れない何か。その何かは、言葉では言い表せない。
我を忘れるほど叫んでいた彼女とは真逆で、全てをなかったことにしてしまえるような静寂さが漂っていた。
「すごく、いい☆正に未知って感じで、すごくそそられるの、おじさま♡」
「クローデル、黙れ。…芹馬高官、目標を眠らせ、調整するのではなかったのか」
刃を作っているクローデルを控えさせ、玄森は芹馬にドスが効いた声で問いただした。
『ああ、装備させたのは麻酔弾ではない。先日上戸前司令官の邸宅で発見した培養液と記録を元に作成した能力覚醒剤だ』
「何…!?」
『永瀬秘書が尽力してくれたのでな。これを一度注射すれば、その女型人間兵器を完全にすることができるのだよ』
芹馬がサオリのことを人間と思っていないことは明白だった。
『さて。さっそく試させてもらおう』
「試すだと…!?」
「それじゃ、私も試したいなー☆」
玄森の言葉を受けてから黙っていたクローデルだが、もう我慢が効かないようだ。
一旦収めた狂気の刃を既に一対作り出し、眼光は興奮で発狂しているように見開かれ輝いていた。
止せ、と止めようとしたときには、クローデルは既にサオリへの間合いを一気に詰めにかかっている。真正面から斬り込んでいき、目視できないほどの速さで刃を首めがけて振った。
サオリは特に反応していないが、それは捉えられていないからではなく、躱す必要すらないと言わんばかりに刃の脅威を感じていないようだった。
ガキン、と刃が何かに弾かれる音が響き渡る。
「…バリア?そんなつまらないものも出せるんだ☆」
首を刎ねるように交差させようとした一対の漆黒の刃は、サオリの身体の周りに纏われている見えないバリアで阻まれた。
『…』
サオリは禍々しい刃をクルッと見回すと、無言のまま何もこもっていない目つきで距離を取ったクローデルに向けて右手を構える。空気が一瞬絶対零度に近くなったように背筋が凍るようだ。
「離れろ、ショーコ!」
思わずクローデルというネームではなく、心に留めていた本名を叫んでいた。
戸惑っている間に、その能力は放たれる。
クローデルが操る瘴気をもっと凝縮して歪みを伴っているような、暗黒の龍が形作られ、クローデルを一瞬で頭部から一飲みにした。
「ショーコ!!」