人間兵器
サオリの咆哮は止まる気配がない。
もはや彼女の理性が制御できるものではなくなっているようだ。
叫びに反響するように、最初に放った衝撃波が彼女を中心にして円形に範囲を広げていく。
「これ…相当ヤバいかもね☆早めに決めちゃった方がいいんじゃない?ウルシ君。一応装備はあるんでしょ?」
衝撃波は確実に玄森達に迫ってきている。余裕ぶっている場合ではない。
「クローデル、<狂気型>で衝撃波を軽減できるか?」
「うーん、気休めにはなるかもね。あの衝撃波、構成的にはどちらかというと時空系だろうし」
「ではそれで援護してくれ」
玄森は身体全体を最先端の防具並みに硬質化させ、衝撃の中心地であるサオリに突っ込んでいった。
踏み込んだ時はまるで研磨されるように微細に身体を削りとるような波動だったが、サオリに近づくにつれ、衝撃波は強くなり玄森の硬質化した身体をボコボコに陥没させるように壊していく。
「この…!」
端からクローデルが能力を放って確かに軽減はされているが、焼け石に水に近かった。
衝撃波が放たれていては、麻酔弾は直打ちするしかない。
それでもあと一歩というところまで来ている。サオリは玄森が近づいてきても、半ば気絶している状態なのかただ能力を放っているだけで他の素振りはみせない。玄森は飛び込むように踏み出し、サオリの首にストレスカウンターを当てて内蔵されていた弾を打ち出した。
これでサオリは意識を失うだろう。そう思っていた。
確かに衝撃波は台風が通り過ぎたようにピタリと収まった。
サオリも目を閉じて眠ったはずだ。
だが、先ほどの悲しみの咆哮ともまた違う、静寂を淀ませた気配が漂う。
完璧と、無機質。何もないと表現するのが正しいだろうか。
そういえばサオリは弾を打ち込まれた後、膝をついたまま上体が倒れることはなかった。
何かが彼女の中で目まぐるしく変わっている?麻酔弾の効果がないのだろうか?
玄森が戸惑って数十秒経つ頃、サオリはゆっくりと目を開けた。
詠斗を突き刺す前の感情豊かな、年相応ではない表情から、どこに焦点を当ててるかも分からないような、俯瞰した目で玄森とクローデルをぼんやりと眺めるだけの視線に変わっていた。
玄森とクローデルは、眠ったサオリを確保し転送することで兵器化を図る、ということしか命令されていなかった。
予定外のことに困惑を隠せないことと、サオリからの異様な空気が放たれていてどうしていいか判断がつかない。
『よくやった、<リッパ—>、<クローデル>』
ストレスカウンターから通信が入った。主は芹馬だった。
『これでサオリ…だったか?人間兵器は完成した。ご苦労だった』