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サオリの変化

詠斗とサオリが居るツク孤島群の本島は、過去の戦闘で捻じ曲がった地形以外には何もない島だった。

だが木の種類も自然種ではなく、遺伝子操作をされて不自然なほど硬いものだという処から察するに、元々この島は遺伝子操作の実験に使われていた土地なのだろう。

「エイト、やっぱりこの島には、お姉ちゃんが残ってると思う」

「さっき白藤さんは消えたじゃないですか」

白藤はもうこの場にはいないはずだ。しかしサオリは、『残っている』とハッキリ言った。

「んーん。今のお姉ちゃんじゃなくて。多分、昔のお姉ちゃん」

サオリはスンスンと匂いを嗅ぎながら、一旦離れた激戦の中心地と思われる島の中央にある歪みが著しい跡地に向かっていった。元々サオリは感覚が優れている。詠斗には見えない何かを捉えているようだ。

「なんかね、この島に来てから、色んなものを感じるの。そしてお姉ちゃんの粒子も、やっぱりこの島にはまだあるみたい」

気のせいだろうか?サオリの目が、青い閃光を迸らせたように見える。その小さな兆候は、数秒後に確固たるものに変わる。サオリが中心部に近づくたび、何もないはずのこの島が躍動しているようだ。

そう、例えていうなら人が何かをゆっくり思い出していくように、この島が50年前当時の空気になっていく。

サオリが大きく息を吸いながら一歩ずつゆっくり歩くと、ねじ曲がっていた木々や地面がぐらぐらと揺れる。最初は揺れるだけだったが、徐々にその捻じ曲がる力が大きくなっているのかあの硬い木が粘土のようにありえない曲がり方をし、地面も歩みの中でクレーターのように穴が開いていく。

やや離れて歩いていた詠斗だったが、サオリが真剣な顔をして歩く度に呼吸がしづらくなるくらい空気が淀んでいるのを強く感じるようになった。息を吸っても、重たい空気が肺に纏わりついて粘性をもっているかのようだ。それでも詠斗はサオリには何も言わず、ただ淡々と彼女の後を付いて歩く。

数分で、中心部に辿り着いたサオリは、相変わらず柄に合わない真剣な表情で荒れた場所をクルッと見渡したあと、今度は表情を一気に悲し気というか、憂いを帯びた表情に変えた。

「エイトのお父さん、名前なんて言ったっけ」

唐突にサオリが詠斗を見ずに問いかける。

「名前…ですか?」

「うん」

「本名は…上戸、拝です」

「そうなんだ。エイト、ここに在るお父さん…見たい?多分、それもお姉ちゃんの願いなんだと思う」

「見たい、って…。父はもう亡くなってますが…。ここに父がいると言うんですか?」

『ここに在る』ということは、当時湯神と戦った上戸がこの地に残っていると言うのだろうか。

「この場所は…不器用なココロが、まだ残ってるの。夢で見たお兄ちゃんと、私が一度だけ見た人と、お姉ちゃんのココロ」

まあいいや、とサオリは両腕を横に大きく広げ空気を本当に掴んでいるかのようにグッと右手を握るような動きを見せた。

握った空間を膜を破るように大きく引っ張り、今度は両手を正面に翳すと、サオリの右手から淡い緑色の粒子が放たれ始めた。


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