跳宰の嫉妬
「何だって…?」
跳宰の回答に、桜井は一気に顔を強張らせる。
あの孤島群は湯神と上戸の対決場所になった地であり、白藤が能力を解放し世界を救った所謂聖地だ。
だからこそ、祖父・赤晴もその跡を継いだ一馬も、そして大多数の高官もその地に関しては上陸や島関連の提案を禁じてきた。
「芹馬高官の指示ですよ。そして一応言いますが、桜井司令官、貴方はもう形だけの存在。永瀬元秘書やクローデルに関する権限は何も持ち合わせていない」
クスクスと嫌味たらしく嗤う跳宰だが、その話は事実だ。苦虫を噛み潰したような表情で、歯が軋むほど歯ぎしりをすることくらいしかできない。
「芹馬高官は権力を手にし、最早野望を隠さなくなりました。『芹馬家が軍事の全てを握る』という野望を、あの方はずっと持ち続けていましたね」
跳宰は相変わらずクスクスと笑うが、目は笑っていない。
「知っているんですから。桜井司令官がずっと、過去の亡霊を追いかけていること」
軍服の袖で隠していた桜井を嘲っているかのような笑い顔が、そう言った途端無表情になる。
「そんな風に言わないでくれないか」
桜井も跳宰の『過去の亡霊』という言葉にカチンときて、つっけんどんに一言添えた。
何を言い表しているのかは、すぐに判った。
「彼女が未だに生きている可能性に縋り、あのクローン?にも想いを馳せているのでしょう?だから初めはクローンを『紛い物』といいながら、今は救おうとしている」
「だって」
頭の中で図星を突かれたことに焦り、思いがけず言葉が幼くなった桜井を、跳宰は別の嘲りを込めたように見つめる。
「その言葉も、私にはあまり見せてくれませんでしたよね」
「…カオル」
「今更ですか。それも司令官らしいところですけど」
「カオルには悪いけど…僕にとっては彼女は特別なんだ」
「どちらも、ですか」
「…うん。最初は紛い物の方を消そうと思った。だけど、彼女も間違いなく、あの人なんだ」
跳宰は改めて桜井の言葉を聞いて、ハア、と一つ大きなため息をついた。『勝てない』と。
「行きますか?ツク孤島群に。今ならまだ少し時間がありますよ。司令官の土人形、造りますので」
跳宰がまたフフッと笑いながら問いかけると、桜井は横に首を振った。
「ここに居なきゃいけないんだ。それに、僕はユタカを信じている」
俯いていた顔を上げ、精悍な面持ちで返答する桜井に、跳宰は『そうですか』とそっけなく返すのだった。
「桜井司令官。敵の進行速度が想定以上の速度です…。敵も技術を上げたようです」
モニターを見た跳宰が若干焦っている。
「調査した時には、この速度を出す技術をプレスキーエリアは持っていなかったはずですが…」
「即、兵を配置させろ。私はどこにでも行けるように、拠点で待機する。跳宰、君は能力者の操作を」