何処にいる
「敵軍は今、どこまで来ている?」
桜井が跳宰に問いかけると、彼女はあと一時間程で戦闘機15機が、二時間後には戦艦30艇が到着すると答えた。
「空中には防御壁を展開しているので兵器の類は貫通できないでしょう。問題は戦艦ですね。予測では分散してキュウシエリアの複数地点に上陸を試みるようです。今の人員では十分な兵を送れない可能性があるうえに、能力者の管理が難しくなるかと」
今のところ、5か所に敵は上陸しようとしている。戦闘機のことも考えると一か所に派遣できる一般兵の数は700人がいいところだ。能力者も一か所に3~4人が限度だろう。
兵器として運用される能力者の能力は、拠点で指示を出さないと発現することができないというデメリットがある。そのタイムラグを桜井は懸念していた。
そして、桜井は何となく嫌な予感がしていた。濡れた薄い膜が身体にへばり付こうとしているような、そんな不快感も感じる。
今は何となくで済んでいるが、少しずつその感覚が決定的であるかのように強く感じられるようになってきているのだ。
この感覚で思い出すことがある。敵将であるスイ・リィエンのことだ。
あの男と対峙した時に感じた威圧的なオーラ。それが今の胸騒ぎと同質のものだ。
(あの男が…近づいてきているのか?だとしたら、今の兵力では…!)
何をされたのかは分からないが、リィエンは桜井の能力を瞬時に<コピー>した。
彼に何かしらの特殊体質があるのは確かだ。
だからこそ、リィエンには能力者を差し向けられない。
「跳宰。スイ・リィエンの姿は確認できているか?」
「いえ。それが不可解な部分です。今のところスイ・リィエンの姿はどの機体にも確認されていません。これだけの兵を統率するなら、どれかに乗っているはずなのですが」
「それはおかしいな。映像を確認させろ」
跳宰は司令部にある映像ブースに桜井を通した。
戦艦内部や戦闘機を透視する機能を通して確認するが、確かにリィエンはいない。桜井の感知能力でも、反応するものはなかった。
だとしたら、この胸騒ぎは一体何なのだろうか?こんな色濃い感覚が嘘か気のせいであるとも思えない。
「奴は絶対に、このエリアに接近してきているはずだ。警戒は怠らないでくれ。発見次第、私を呼ぶように」
「畏まりました」
「…ユタカ、いや永瀬はどうしている?あの男の元にいるのか?」
芹馬高官殿、と呼びたくない自分がいるのを桜井は隠さなかった。そんな彼を跳宰は面白いとばかりにまた微笑む。
「ああ。永瀬元秘書なら…<ツク孤島群>に派遣命令が出ていましたよ。桜井司令官がこちらに来る直前に」