指揮
桜井は執務室の壁面に映し出されている監視カメラの映像を観て眉間に皺を寄せていた。
ここ最近、桜井は一人で執務室にいることが多くなった。
秘書である永瀬が、芹馬高官の所属になってしまったからだ。
永瀬だけではない。跳宰や研究を進めていた能力者数十名の所有権を芹馬が所持することになっている。他の高官たちを丸め込み、権限を集中させたのだ。
現在桜井は実務部隊の長というだけで、兵を動かす権限は芹馬が握っている。
全てはスイ・リィエンが攻め込もうとしている現状を口実にしたものだ。
痕跡持ちの市民は既に兵器化され、意志持たぬ傀儡になっている。
そのタイミングとリィエンが攻め込むタイミングがピタリと陰謀を疑う位に一致しているようだ。
永瀬は芹馬の部下になったものの、自分の意志で手隙の時間を使い桜井に会いに来ることがあった。
スパイの可能性を真っ先に考えたが、永瀬のストレスカウンターの記録と録画映像を確認しても芹馬に報告している様子がなかった。
「…ついに、来るか。いつかこんな日が来るとは思っていたけど」
画面の一つには、透明化した大きな戦艦がいくつも海原を縫って航行している様子が映っている。
スィエン主導の技術開発で兵器の透明化を実現させたようだ。
だが透明化は不完全で、航行中の動き自体はサーモレーダーで確認できている。
そして今日、他のエリアから戦闘機が多数出撃し、どれもまっすぐ二ホンエリアに向かってきていることが確認された。
数時間のうちに、戦闘が始まるだろう。
空中から自在に入れぬよ防御壁は張っていたが、それをアイスピックのように鋭い一撃を戦闘機から発射することで破壊し領空内に侵入してきている。
「芹馬高官殿、出撃命令をお願いいたします」
桜井が多数展開されている画面の中央に映る芹馬に頭を下げると、芹馬はニヤッと笑う。
「よかろう。全てキュウシエリアで迎え撃て。貴様には30人の能力者と5千の兵士を統括するのだ。どうやら一部はツク孤島群に向かっているようだな。そこにはクローデルとリッパ—を送る」
やはりサオリの元へ彼らを送ることは避けられないようだ。
今は非常事態。国防のためならば、断ることはできない。
「了解…いたしました」
「何か異変を感じた場合は、すぐに桜井司令官はその場所に行き、問題を解消せよ」
芹馬はこれは能力者の力を大々的に試す良い機会だと息巻く。
「素晴らしい結果が、我々を待っているであろうな!では出撃!」
芹馬の画面が消えると、桜井は身なりを整えて転送機能でキュウシエリアへ向かうのだった。