ことの始まり・4
手に取ってみると、ファイルのポケットの半分に一枚一枚写真が収められていた。撮影日は記載されていないが、見る限りかなり昔の写真なようで、どれも色落ちが激しい。
一ページ目。天然パーマでボサボサの黒髪、背は高めの青年と、茶色気味の短髪に体格のいい青年が映っている。二人が楽しそうに談笑している写真。同じページに、データを印刷した用紙が二枚挟められていた。北エリア総合病院の崩落事件のものと、桜井拓のカルテのコピーだった。
「この写真は、湯神震と桜井拓か」
二ページ目。黒い無地の上下を着た湯神。一ページ目の写真と同じ顔とは思えないくらい荒んだ表情をしていた。背景が真っ白になっているということは、施設に連れて来られたときに撮影されたものだろう。
その後数ページ、湯神の検査をする際に撮られたと思われる写真ばかりが挟められている。
野郎に興味はない、とページを無表情にめくると、後半のページに信じがたい写真が収められていた。
「サオリ…さん?」
サオリと全く同じ容姿をした女性が、その後のページを埋め尽くしていた。全て一人で写されている写真は、どれも笑顔だ。笑った表情は、詠斗が昨日出会ったサオリと何も変わらない。
「サオリさんは、ずっと貯水槽の中で眠っていたはずだ。この女性は…一体」
服装は私服(職場用なのか、スーツを少々ラフにしたようなもの)が多いが、最後の方は病院で着るようなパジャマを着用していた。写真を一枚取り出し、裏を見るとステッカーで<白藤さおり 9月)と貼られていた。
「この女性が白藤さおり。さおり…?」
嫌な予感しかしない。白藤さおりは特殊な能力者。検査をするときに細胞を採取し保存しておけば、概ね肉体を培養することができるのは50年前以前からとっくに可能になっている。
「サオリさんは…」
なんにでも転べる遺伝子を持つのだ。完成し管理することができれば、政府が求める恐ろしい人間兵器の完成だ。
だが、仮に人体生成は成功しても、命令を理解する感覚を持つことが難しいとされている。心がない訳ではないが、指令を脳に送っても反応しない。つまり、命令を受け付けることもなく、自発的に動くという発想がないようだ。人体生成の研究に参加したが、身体完成後に培養液から出しても生きるという本能しかないというような感じだった。
恐らく、サオリは白藤の遺伝子を元に造られたクローン。何故彼女が崎下の屋敷にいたのか。そういえばこのファイルにも上戸と梵と思われる写真は入れられていなかった。
何か理由があって、二人の写真は保存されていないのだろうか?意図的に抹消されているようにも思える。
それよりも白藤とサオリのことを結び付けなければならない。
詠斗は白藤の写真を一枚抜き取って、書庫を後にした。
書庫の話、やっと終わりました…




