二ホンエリアに戻る
永瀬は戦艦を引力で紙屑のように丸めていたが、涼しい顔をして疲労を全く感じさせない。
退屈だと言わんばかりにサングラスをかけ直し、冷めた顔で戦艦だった鉄屑を眺めている。
「…まだ何かあるような顔してるな」
小声で玄森が呟くと、それが聞こえていたのか永瀬は能力で玄森の足を取り、地に転ばせる。戦闘前に柳にしたことと同じだと分かっているが、相変わらず何をされたのか感知できない速度だった。
「言葉には気を付けるように。貴様に繕えと言っても左程効果はないだろうがな」
「何かまだあるんですか、永瀬秘書」
「鉄屑にしたつもりだが、生命炉の気配が消えていない。何かがまだ生きているのだろう」
玄森には何も感じられないが、永瀬は何かを察知しているようだ。生命炉という単語もよく分からないが。
「やはり鉄屑では生ぬるいか。粉々にする」
永瀬は両手をポケットに入れ、10個の鉄屑を凝視する。
サングラスをかけているが、目が光を帯びるように迸っているのが分かる。
鉄屑たちは全てとてつもない力で瞬く間に薄い鉄板のように潰され、瞬きする頃には細かく分かれた引力の針でバラバラにされていた。
「やっぱりユタカさんは桁外れね☆あんなの見せられたら、私興奮しちゃう…☆」
柳は我慢できないと言って、濃い瘴気の刃をやや離れた位置にいる永瀬に飛ばした。
…が、永瀬は全く動じずに高速で飛んできた刃をさらに可視化できるほど黒い引力で押しつぶした。
「そんなこともできるのね、ユタカさん☆」
「…」
「ごめんなさあい、私、滾っちゃうと感情に逆らえなくて☆」
てへぺろ、と舌を出す柳にも、彼女が向けた興味本位の攻撃にも、永瀬は何の感情も抱かないようだ。
「貴様らの能力は合格だ。今回の戦闘は、貴様らの能力が実戦に向くかの判断をするためでもあったからな。では、帰還する」
「はーい☆」
永瀬は再び転移陣を展開し、玄森と柳を連れて二ホンエリアに戻った。
転移先である二ホンエリアの中央施設に戻ると、従者数名を護衛に付けている、格式高いスーツを着た老齢の男が三人のことを待っていたようだった。
「芹馬高官殿。只今帰還いたしました」
目の前に立つ老人に、永瀬は深々とお辞儀をする。
「ごくろう。して、どうだった?その者らの能力は」
ギラッと老人の目つきがほんの一瞬、鷹のように鋭くなった気がした。
永瀬が静かに『合格です』と告げると、老人は満足そうな顔をするのだった。
「おじさま、今度はいつ出撃できますの?」
アナウンスの声の主は、この老人だったのだろうか。そして柳はこの老人のことを知っているようだ。
「<クローデル>、急ぐな急ぐな。その時は必ず来るのだから」
低いしわがれ声に猫なで声を合わせたような薄気味の悪いトーンで、芹馬高官と呼ばれた男は柳をいなす。
「して、この青年が対なる存在か」
「左様でございます」
柳を見る目から一転して、芹馬の目は厭味ったらしいネチネチとした目つきに変わる。
「この男も、使えるのなら使うしかないか。何せ高額で競り落としたのだから」