変な波動
喜々として芹馬はサオリの性能について語る。
「50年前の奇跡、あれは素晴らしいものだった!その因子を引き継いでいる者の力を正しく使えば、我が二ホンエリアは再び世界を制することができる!銃、剣、鈍器、レーザー、ミサイル…ありとあらゆる殺傷兵器を放てるのだ!まさに一騎当千、このエリアにふさわしい!」
ついでに『お前はまだ幻影を追い求めているが、それは不毛極まりない』と桜井に言い放った。
「知っているぞ、貴様は未だに白藤さおりの生存説を信じていると。まったくもってバカバカしい。あれだけの能力を使えばとっくに消滅している。第一生きていたとしても才能が枯渇している70代の婆だ。なんの値がある?」
「…取り消せ」
「は?」
「その発言を取り消せ、芹馬宗二!」
白藤は生きている。存在している。
そして彼女を否定する言葉だけは、桜井には我慢ならないものだった。
白い電流を周囲に纏わせ、桜井は芹馬を威嚇する。
だが桜井が攻撃できないことを知っている芹馬はどこ吹く風だ。
「そんな口の利き方をするのかね、司令官ごときが。あと一歩踏み込めば、貴様の心臓は握りつぶされるのは分かっているだろう?」
「…!」
感情のままに桜井が駆けてしまえば、サオリは必ずこの男の手に落ちるだろう。
制約の鎖は既に心臓に絡まり始めている。これ以上桜井からは何もすることができない。
雷を吹き出させながら硬直していた桜井を、従者二人で同時に蹴り飛ばした。
「…貴様はあくまでも、引かないという事だな。よかろう。貴様の覚悟を見た今日は引いてやる」
壁に叩きつけられてなお、怒気を込めた目つきをやめない桜井を一瞥して芹馬は従者を連れその場を後にした。
「くそ…どうしたらいい。僕には…止められないのか??」
砕けた壁の側で、桜井は小さく舌打ちをした。
「サオリさん」
エレベーターを降りると、空間はまだ白藤の部屋の形をしたままだった。
ベッドを見ると、サオリはまだ眠っている。
スースーと小さな寝息を立てている表情はとても穏やかで、口角が少し上がっている所をみると良い夢でもみているのだろうか。
(嵐の前の静けさ…ってやつでしょうかね)
芹馬と出会ったことで、サオリのこれからの未来は負でしかないことを知りざるを得なかった。
あの男は欲しいものは全て手に入れようとするだろう。会っただけで強欲さが伝わってきたのだ。
そんなことで悶々としていると、急にサオリがバチンと目を開け跳ね起きた。
周囲をキョロキョロと見回すその顔は、寝ている時とは違い慌てているようだった。
「どうしたんですか、サオリさん」
詠斗の声や姿をあまり認識していないのか、その一言も聞こえていないようだ。
サオリは両耳に手を当てている。
「サオリさん」
肩をポンと叩くと、ハッとしたようにサオリは詠斗を見た。
「エイト…遠くから変な気配がするの。どんどんその気配が、大きくなる」
サオリがそう告げて間もなく、詠斗も気味の悪い波動のようなものを感じた。