紺野の力はヤンガジ地区で
ヤンガジ地区の祠。それは国家でも場所が把握できなかったものだと聞かされた。
「それって、誰も発見できていないやつだろう?なんでその場所を知ってるんだ?」
偶然だった、と紺野は答える。
「僕は元々ヤンガジ地区の隣にあるアマニシ島の生まれ。島にいた頃の僕はヤンチャでね。10歳くらいの時に親にヤンガジ地区の森に半日置き去りにされたんだ」
置き去りにされた紺野は、森の中を当てもなく歩き回った。
足を挫いて思わず泣きごとを呟いていた時に、森の奥からなにやら声が聞こえてきた。
声のする方へ移動すると、青や緑の光の球体が古びた祠の周りをフヨフヨと宙に舞っていた。
球体を掴もうとすると、それはパッと離れた位置に瞬時に移動して、また漂う。
祠からは念話のように何か声が聞こえる。祠の主は紺野が来たことを喜んでいるようだった。
声は不明瞭で、かつ語りかけてくる言葉は二ホンエリアの言葉ではなかった。
しばらく、紺野は祠の前で体育座りをしてその言葉に相槌を打ってしばらく過ごした。
気が付けば、周りは薄暗くなり始めていた。
「僕、もう帰らなくちゃ」
紺野がそういうと、祠からの声がピタッと一度止まった。
『付き合ってくれたのだ、礼を渡そう』
若い男の声で、確かにそう聞こえた。
言葉が終わると、周りを飛んでいた赤い球体がいきなり紺野の左目に飛び込んできた。
灼けるような痛みが一瞬左顔面を駆け巡るが、すぐに治まる。
その時は、何が起きたのか全く分からなかったが、どうやらもう行っていいようだった。
帰り道が分からないかもと焦ったが、それまで不規則な動きをしていた青い球体が一つ紺野の少し前を誘導するように浮いている。
縋るのはこれしかないのだと、腹をくくって付いていくと両親が船をつけていた浜辺に無事付くことが出来た。両親も丁度、慌てて迎えにきていたようだ。
迎えにきた両親の顔は、何故か大きな青あざに埋もれていたが。
「そんなわけで、僕の左目はその時からずっとこう。この目になってから、相手の動きを見切れたり身体能力が劇的に上がったのさ。あと、精神的に落ち着きが出たね」
今思えば、祠にいる『何か』の力なんだろうと紺野は笑った。
「さて。柳さんは連れていかれちゃったけど、まだ残っている人がいるだろう。…部屋に、礎さんが居るよ」
紺野はチョンチョン、と柳の個室のドアを指さした。
「話、少しは聞いてくれるんじゃないかな」
「あいつは…俺の事を嫌っているからな。話してくれるかね」
行くだけいってきなよ、と紺野は玄森の背をポンと押した。
促されるまま引き戸を開けると、玄森が入ってきたことも意に介さず、礎は立ちっぱなしで柳が寝ていたベッドを見つめたまま動かないでいた。