軍人の正体
「祥子!おい!」
(声が…聞こえないのか!?)
玄森が大声で何度叫んでも、柳は振り返ることもしない。
走り寄る玄森を遮るように軍人が立っているのを、何とか押しのけようとするが軍人はビクともしない。
「…本当にお前は、鬱陶しい。もう決まったことなんだ。何をそんなに逆らう?所詮お前も捨て駒なんだろう」
「うるせえ…!祥子から離れろ!」
激昂した玄森は、意図せず右手をブレードに変えて軍人に飛び掛かった。
…が、軍人の身体から磁石の反発が起きているように強く弾かれ、近付くことが出来ない。
飛びかかった体が宙に浮いたまま、身動き取れなくなっていた。
「お前には力で答えないと分からなそうだな」
そう軍人が言い終わると、今度は玄森の身体が瞬く間に廊下の壁に強く叩きつけられた。
それも一度ではない。当たった瞬間に反対の壁にバウンドするように何度も繰り返される。
「ぐがあ…!」
「まだ意識があるのか。だが、もう動けないだろう。哀れだな、<リッパ—>」
全身の骨が砕けるような痛みに悶える中、確かに軍人はその名前を呼んだ。
「なん…で…その名前を…知ってる…?」
<リッパ—>は、50年前に呼ばれていた玄森の異名だった。
殺人事件を起こすたびに、街のニュース放送でその名を呼ばれていた。
「玄森!大丈夫か!?」
軍人の能力が発現されている間、一歩引いていた紺野が玄森に駆け寄った。
「紺野…だい、じょうぶだ。あいつ、あれでも加減している…」
軍人のことを、紺野は意味深な目で見ているようだ。
それも意に介さず、軍人は柳と未だ玄森の一撃で悶絶している仲間を連れてどこかへワープしていった。
どうやら部屋から連れ出し歩いて護送するというのも、ただのパフォーマンスのようだった。
紺野はストレスカウンターから、ストックしている自作の鎮静剤を玄森に打ち込んだ。
「助かる…。大分痛みが取れたよ」
玄森が起き上がると、紺野はホッとしたような表情になろうとするが、先ほどの軍人のことが気にかかっているのか何か複雑な表情だ。
「あいつは…何者なんだ?」
あまり覚えていないが、なんとなく近い力を体験したことがあるような気がする。
「…永瀬豊秘書だよ」
紺野は静かに軍人の名前を告げた。
「永瀬って、いつも桜井司令官の側に付いているあの男か?」
「うん。あのチカラ、間違いない」
何故知っているのかは分からないが、紺野は永瀬の能力を把握しているようだ。
「永瀬秘書の能力は、引力。いや、引力というよりは念力に近いかな。自由自在に対象を引き寄せたり吹き飛ばしたりできるんだ」
「俺を壁に叩きつけたチカラはそういうことだったのか」
「永瀬秘書は、レクス社に造られた人間。<人工人間の成功例>」
なんでそんなことを知っているか尋ねると、紺野は左目のコンタクトを外した。
燃えるような緋色の瞳に、五芒星のようなものが刻まれている。
「僕は幼少期に、ヤンガジ地区の祠を見つけてしまったんだ」