デイグさん
先ほどまで何を言っているか分からない言語が飛び交っていたが、デイグはニホンエリアの言葉を使って話しかけてくる。
デイグの手は氷のように冷たく、触れられた瞬間ヒヤッとする。
思わず顔を窄めてしまったが、デイグはその様子を微笑ましそうに眺める。
「すぐに私の家へ送ってちょうだい」
デイグがそういうと、傍にいた船員が「かしこまりました」と言ってポータルを起動した。
「さあ、行きましょうか。フフ、そう怖がらないで。何もしないわよ」
「あ…」
この船に乗せた男のように、デイグは手荒な真似はしなかった。
歩くように優しく促す彼女が何を考えているのか分からないが、もう自分は付いていくしかない。
ゆっくりと玄森が歩き出すのを、デイグは優しい眼差しで見守っていた。
二人でポータルの上に乗ると、瞬時に何処かへ転送される。
小高い丘にポツンと一軒だけ、小さなログハウスが立っていた。
「小さい家だけど…ここが今日から貴方の住む家よ」
小さいと言っても、生家の2倍くらいの大きさはある。
中に入って、とデイグは家の鍵を開け、玄森を家の中に入れた。
大きな茶色のファンが天井でゆっくりと回る、開放的な木調の広いリビングが目に飛び込んできた。
「貴方の部屋はこの奥よ」
連れられるままリビングを通過し、隣接している檜の扉をあけると、シンプルにベッドとテーブルだけが置かれ、大きな窓がついている部屋があった。
「どんな子が来るかわからなかったから、こんなに殺風景になっちゃったけど…。これから生活していって自分で変えていってね」
「ここが…僕の部屋ですか?」
殺風景だとしても、玄森には十分すぎる部屋だった。
こんな空間を与えられて本当にいいのだろうか?と不安そうな顔をする玄森に、デイグは「いいの」と柔和に微笑む。
「こんな婆と住むのは嫌かもしれないけど、一緒にいてくれるだけでいいの」
デイグとの生活は、本当に満ち足りたものだった。
最初はいつ彼女が豹変するかと怯えていたのだが、デイグは声を荒らげることもなく、本心から玄森と生活していることを喜んでいるようだった。
時々、一緒に買い物に行こうと誘ってくれて、傷が目立つからフードを被ろうねと二人で同じ羽織ものを来て街にいったりもした。
一つ気になったのは、デイグは買い物に誘う(若しくは玄森がどこかに行こうと誘う)以外、外に出ようとしなかったことだった。
料理た掃除、玄森の様子を見に来るとき以外はずっとロッキングチェアに座り、ブランケットをかけてずっと本を読んでいる。
食料品やいつも読む本、日用品はどうやら転送システムを使って購入しているらしく、出る必要がないようにしていた。
ある時一度、デイグに聞いてみた。
「ずっとデイグは一人で居たの?」と。
デイグは少し困ったような苦笑いをして、「そうよ」と言った。
「私も…ウルシと一緒なの」
「僕と…一緒?」