売却された
自分が売られた?この人は親戚ではないのか?
「俺はただの受け子だ。お前はこれからプレスキーエリアに行くのさ」
親戚というのは院長の嘘だったらしい。
そもそもあの院長はプレスキーエリアと癒着していて、玄森のような境遇の子供や孤児を引き取っては売却していたという。
「特にお前は上玉だ。顔が整っているから高く売れるだろうな」
頼人はサングラスを外し、意地悪く笑うのだった。
そんな話をされて、玄森の心の何かが壊れた。
「あは、あはは。あれ、なんでだろ。悲しくないや」
「なんだ、お前。気持ち悪いやつだな。何か言うかと思えば、そんな嬉しそうな顔して笑い始めるなんて」
「だって」
頼人は車の速度を上げる。今まで道が混み気味で、これでは買い手の乗っている船が出発してしまう。
「だって、ここから離れられるんでしょう?僕、ここには何もいい思い出がないから」
唯一の繋がりだった柳も、自分は死んだと思っているだろう。柳を除けば、何も未練がなかった。
「…クソガキが」
頼人はため息交じりにそう呟いた。
車は1時間ほど走って、人気のない海岸の岩場近くで止まった。
「万一が合っても嫌だからな。手を出しな」
頼人は車から降りると、玄森側のドアを開けて手錠をかけた。
「逃げたりするなよ。逃げようとしたら即殺処分だ」
拳銃をチラつかせて腰に携帯すると、頼人は玄森を連れていわばを歩き、入江の中に入っていった。
入江には木で作られた中型の観光船らしきものが泊まっている。
「待たせたな」
「出発時間スレスレですヨ。間に合ったからいいですガ」
語尾のイントネーションが微妙におかしい痩せ型の男が、尊大な態度で頼人を待ち構えていた。
「こいつが院長一押しのガキだ。上玉だろう?」
キョトンとしている玄森のことを、男は舐めまわすように全身くまなく見たあと。最初の不機嫌そうな顔から一転して気持ちの悪い満面の笑みを浮かべた。
「確かに端正な顔立ち、嗜虐心をそそる顔の傷具合。事前にインチョーからもらっている全身の写真に写っていた身体も中々でしタ。これは確かに売れますネ。では、前金のこちらをどうゾ」
男は小切手を切り、頼人に手渡すと、手錠の長めの鎖をガッシリ掴んで玄森を引き寄せた。
「また御贔屓ニ」
男が船にアイコンタクトを送ると、船内に行くポータルが現れた。
「さあ、これから競売の時間ダ。早く来イ」
ポータルの先は、豪華な船内だった。
趣味の悪いクリスタルがゴテゴテ付いたシャンデリアに、通路沿いには等間隔で動物を模った金の彫刻が向かい合わせに並んでいる。
「お前は大人しく付いてくればいい。後、上半身のその薄汚い服は脱いでもらうゾ」
「でも、身体は…見せたくない」
「黙レ」
男は乱暴に玄森のシャツをはぎ取り、小突きながら通路を歩いていくのだった。
「さあ、おまたせしました!今回最後の入荷は、こちらの少年です!」
普段聞く言語と全く違う言葉で、司会のような人物が喋っている。
重い金細工の扉が開くと、そこには小さいステージと10人ほどの黒いスーツを着た客が座っていた。
玄森がステージに立たされると、客は席を立って玄森に近づきジトッと見つめてくる。何かを見定めているようだ。
「名前はクロモリ・ウルシ。年齢は7歳!二ホンエリア民とは思えないくらいの美麗な顔に、火傷跡。我々プレスキーエリア民の元に置くのに真ピッタリな子にございます!値段は500万ウォルトから!」
「1000!」
「1200!」
「うぬぬ、1750!」
なんだかよく分からないが、自分がオークションにかけられている。
「2100!」
「2100万ウォルトいただきました、他にございませんか?」
司会が最後のコールをしたが、それ以上の入札はなかった。
「2100万ウォルトで、ユンナ・デイグさんが落札されました!」
拍手が巻き起こり、落札者である妙齢の女性が上品に一礼した。
「お前は今日から落札者の元で過ごすことになル。まあ、落札者が良心的でよかったナ」
「???」
「こんにちは、ウルシ。私が貴方を買ったユンナ・デイグよ」
「あ…。」
デイグは優しい笑みを浮かべて、怯える玄森の左頬を一撫でした。